BREFING.565(2021.10.25)

「増分価値」の総取り

形状の悪い2つの隣接地が併合されることによって形状が改善され、その併合後の土地の価格が、併合前の2つの土地の価格の合計を上回ることがある。また、背面で接する2つの土地がそれぞれ正面で幅4mの道路と20mの道路とに接している場合、両土地が併合されることにより同様のことが生ずる場合がある。合理的でない区画割りが、より合理的な区画割に改善され、価値の増加(この増えた価値を「増分価値」という)が生じたのである。

このような関係にある両土地の所有者は、相互に、相手の土地を、その単独での価格を上回る額で取得することが合理的となる。但し、いくら上回るのが公平・妥当なのかは議論のあるところである。

つまり「増分価値」の配分方法が問題となる。両土地所有者が一緒に土地を売却した場合の売買代金の分け方の問題と考えれば分かり易い。

配分方法としては、折半法、面積比法、単価比法、総額法、買入限度額比法などがあり、一般には、分かり易い総額比法、少し理屈をこねた買入限度額比法が採用される。買入限度額とは、相手方から見た併合取得して損のない合理的な最高価格である。

面積や総額に大差がない場合や、協議が面倒といった場合には、折半法も多く採用されているのではないかと推測する。

これらの他、総取り法と命名すべき配分法もあるので紹介しておく。

例えば道路拡幅用地の買収に当たり、残り1軒で完了というとき、起業者がその1軒(単独では1,000万円とする)を取得することにより、その道路の価値が、80億円から100億円に上がるとしたら、この併合取得による「増分価値」は次の通り求められる。

100億円−(80億円+1,000万円)= 19億9,000万円

この「増分価値」を総額比法、買入限度額比法で配分すると、買収済み用地価格(A)と、残る1軒の価格(B)は次の通りとなる。単位は百万円である。合計は当然どちらも100億円になる。

<総額比法>
A: 1,990 × 8,000/8,010 + 8,000 ≒ 9,988
B: 1,990 ×   10/8,010 +   10 ≒   12

<買入限度額比法>
A: 1,990×(10,000−  10)/((10,000−10)+(10,000−8,000))+8,000 ≒ 9,658
B: 1,990×(10,000−8,000)/((10,000−10)+(10,000−8,000))+  10 ≒  342

勿論、道路用地という公益性に鑑み、B土地の買収価格に増分価値の配分はない。Bの同意が得られない場合には、収用により起業者が1,000万円の補償金を支払って取得する。つまり収用は起業者側の「増分価値」総取りなのである。先に列記した配分方法の1つに、この「総取り法」を加えねばなるまい。

憲法第29条第3項は次のように述べている。「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。但し正当な補償に増分価値の配分はない。」ちなみに但書は筆者が勝手に加筆したものであるから、転載せぬようご注意いただきたい。


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