BRIEFING.58(2003.6.23)

ハザードマップの公表と地価

平成13年の水防法改正に基づく「浸水想定区域」の通知を受け、各関係市町村は洪水ハザードマップの作成・公表に取組んでいるところである。これらの成果の多くは(社)日本損害保険協会が作成した「洪水ハザードマップ集」(CD-ROM、144市区町村の資料を収録)で見ることができる。地域住民に浸水への備えを喚起し、避難場所を周知せしめる意義は大きい。

これらのマップの表示内容や表示方法は、一律ではなく、地域の実情に合わせ、津波の被害範囲も予想したもの、急傾斜地の危険箇所も表示したもの等がある。浸水の予想される範囲も、荒いモザイクで表示したものから、かなりはっきりとその範囲を表したものまである。後者の1つに、東京都杉並区の洪水ハザードマップがある。

杉並区のマップは、平成12年9月の東海豪雨と同程度の大雨が降った場合の浸水区域を、浸水深0.5m未満を黄色に、1.0m未満を緑色に、2.0m未満を水色に、5.0m未満を青色に、それぞれ着色して表している。主に河川の近くが着色されているが、青梅街道の北に並行する桃園川緑道に沿っても着色部分が連なっており、ここがもともと河川であったことがよく判る。

この帯状の地域は、主に黄色と緑であるが、部分的に水色の部分も見られる。その1つは、JR高円寺駅の南東方約500m付近、環状7号線から少し西へ入った地域である。1〜2mの浸水深が予想されており、その範囲はかなり明確に読取れる。

普段はこの地域で1〜2mの浸水など想像もつかない。しかしこの地域は、周辺に比べ街路が狭隘・不連続であるように感じる。おそらく、古くから浸水の危険性が知られ、開発が避けられてきたのであろう。

ハザードマップの公表には、その反響を気にして消極的な意見もあったという。しかし「マップ集」は、治水事業で洪水頻度が低下した結果、住宅等が立て込み、住民の危機意識が低下し、返って万一の際の被害が大きくなることから、治水事業が進むほどマップの必要性は高まると指摘している。

さて、このマップの公表が、今後、浸水の見込まれる地域の地価にいかなる影響を及ぼすであろうか。想定した豪雨の頻度や数値の精度を勘案した冷静な判断が望まれる。


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