BRIEFING.61(2003.8.7)

短期賃借権保護制度の廃止と賃貸市場への配慮

「担保物件および民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」が先月成立した。その主な内容は短期賃借権保護制度の廃止である。これにより抵当権に遅れる賃借人は長期・短期にかかわらず、買受人に賃借権を対抗することができなくなり、猶予期間後は賃借物件を明渡さなければならず、敷金の返還請求もできないこととなった。

これについては、当コラムにおいてもNO.31(2002.5.13)NO.32(2002.5.20)で提案をさせていただいたところである。法案は当初猶予期間を3ヶ月としていたが、成立に際して6ヶ月に修正された。これは当コラムで「6ヶ月ルール」として提案していたもので結構な修正であったと考える。しかし、その間、賃借人に賃料支払義務があるという点で当コラムの「6ヶ月ルール」とは大きく異なる。

「6ヶ月ルール」の詳細はNO.31NO.32をご覧いただくとして、そのポイントは、敷金返還請求権の喪失と引替えに6ヶ月間のフリーレントを与えようというものである。できればその間に両者が協議して新たな敷金・賃料等を定めて賃貸借を開始してもらおうというねらいもある。買受人にとっても、善良な賃借人には居てほしいはずである。

その協議に6ヶ月が長すぎるとしても、協議が整わなかった場合の転居先を捜す期間を考慮すれば長すぎることはない。また、地域・用途等によって差異はあるものの敷金の喪失と6ヶ月間のフリーレントとでは、大まかにバランスが取れるのではないか。

「6ヶ月ルール」では猶予期間後の残置物の取得も提案しているが、これは第三者の動産やリース物件の処理に困らないようにとの趣旨である。これらの動産所有者への配慮のためにも6ヶ月(半年も取りに来なければ放棄と見なしてもよいであろう)が適当であろう。

「6ヶ月ルール」は買受人・賃借人のどちらかを有利にしようというものではなく、両者間のルールを明確化し、双方の不安や煩わしさをなくそうというものである。買受希望者は安心して入札し、賃借人は安心して抵当不動産を賃借することができ、競売市場と賃貸市場の活性化につながるのである。今回の改正法はやや賃貸市場への配慮を欠いたのではなかろうか。


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