BRIEFING.63(2003.10.2)

不動産に帰属する適正な収益(1)

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより、その試算価格を求める手法である。純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。

賃貸ビル・マンションにおいて「不動産に帰属する適正な収益」は、比較的求めやすい。それは、賃貸用でない収益用不動産、例えば自用の事務所ビル・工場・店舗等に比べ、次のような特徴があるからでる。

@経営者・運営者の関与が限定的。
A総収益・総費用が既知的。
B他の事業から独立的。

賃貸ビル・マンションは、経営者の判断でテナントを入替たり用途を変更したりすることは困難であり(@)、総収益(主に賃料)・総収益(維持管理修繕費等)がある程度予想可能である(A)。また、それのみで事業が完結しており、他の不動産のバックアップを受けていることが少ない(B)。

では、賃貸用でない収益用不動産の場合、たとえば工場の場合はどうだろうか。

まず、何をいつどこから仕入れて何をつくるかという経営判断で総収益は大きく変化する。また、不動産以外への分配分が、不動産への分配分に比べてはるかに大きく、かつ可変的である。そしてその総収益(売上)は他の営業所や本社があってのことであるから工場自体の総収益は把握困難である。

大規模小売店舗やレストランの場合は、@Aが当てはまらない。独自の配送網や倉庫、セントラルキッチン等を別にもっているならBも当てはまらない。

ホテル、ゴルフ場の場合はどうか。おそらくBは当てはまる。Aもは当てはまると言ってよい。しかし@は工場の場合ほどではないにしろ当てはまらないだろう。

賃貸用でない収益用不動産の評価においては、純収益が把握できるかが課題である。


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