BRIEFING.70(2004.3.11)

DCF法による価値の表現

不動産の価格を求める鑑定評価の手法の1つ、収益還元法は、直接還元法とDCF法とに整理される。DCF法は近年着目され、特に不動産に対する投資採算性の判断に際しては、重視される手法である。

ところで、バブル期、融資をしたい銀行、不動産を販売したいデベロッパー、工事を受注したいゼネコンやハウスメーカー等は、競って賃貸ビル・マンションの収支計画書を作成し、投資家や事業主に提示した。毎年のキャッシュフローを現在価値に割り戻して合計することこそしていなかったものの、将来の収支予測というその手法の重要な部分はDCF法と類似する。

その予想がことごとくはずれてしまったことはさておき、留意すべきは彼らが数パターンのものを用意し、こういう前提ならこう、ここをこう変えればこう、という提案の仕方をしていたことである。そして投資家や事業主の予想や判断をも取り込み、空室率や賃料の上昇率、借入金利率等を柔軟に変化させて表を作り替えていたのである。

投資家や事業主は、その様々な予想・想定の妥当性を総合的に検討し、重大な投資判断を下したのである。それは生の不動産に対する投資であろうと証券化された不動産に対する投資であろうと同じであろう。

将来の賃料水準、金利の水準、インフレ(デフレ)の程度、これらの予測は極めて難しい。しかし投資家や事業主が求めるものは、これらの予測ではなく、その水準をさまざまに変化させた場合の収支結果ではないだろうか。それを表現できるのがDCF法である。

DCF法は、投資家や事業主の判断材料となる可変的ツールであると考える。単に試算価格のみを示すだけでは投資判断の参考にはならない。少なくともキャッシュフロー表を示し、さらにその想定を変化させ、価格や様々な指標の変化をも示す必要があろう。DCF法は、多元的、立体的な価値の表現方法なのである。


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