BRIEFING.90(2005.6.6)

運用利回りのとらえ方

支払賃料と実質賃料との関係については、BRIEFING.89で触れたが、両者を結びつける重要な数値が運用利回りである。これをいくらにするかによって、両者の関係は変動する。

一般に不動産鑑定評価における賃料の評価、及び価格の評価における収益還元法の適用において採用する運用利回りに対する考え方は、大きく次の3つに分けられる。

@安全性の高い長期債権、預金等の利回り程度
A長期借入金の金利程度
B対象不動産に期待される利回り程度

@は、得た現金を安全確実に長期国債や銀行預金等で運用することを想定している。Aは、得た現金を事業に係る借金の返済に回すことを想定している。Bは、対象不動産が供されている事業又は類似の事業に追加投下することを想定している。

@は対象不動産に全く関わりがなく、Aもあまり関係がない(債務者の信用に関係する)のに対し、Bは対象不動産の種別に左右されるという特徴がある。

今の経済情勢下では、@で0%〜2%、Aで3〜4%、Bで5〜8%といったところか。いずれも今現在のものというのではなく、過去の水準を踏まえた上での今後十年程度の予想平均値ととらえるべきだろう。

@に対しては、預かった敷金も事業資金に回すのが普通だ、という批判がある。Aに対しては、借金がない場合もあるし債務者の如何によって変わるのもおかしい、という批判がある。Bに対しては、同じ現金なのに対象不動産により利率を変えるのはおかしい、という批判がある。

近年の鑑定評価においては、超低金利の長期化により、@はあまり見られなくなり、Bが優勢となりつつあるように感じるがどうだろうか。収益還元法のひとつDCF法では、そのしくみ上、自動的にBを採用することになるが(BRIEFING.52参照)、そのことと関係しているかも知れない。

@預金金利主義か、A借入金利主義か、B投下資本利回り主義か。数値に大きな開きがあるのに、使い分けの基準は、まだ十分に議論されていない。


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