BRIEFING.92(2005.6.20)

還元すべき純収益は償却前か?償却後か?

収益還元法のひとつ、直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで還元するものであるが、純収益には、建物の減価償却費控除後のものと控除前のものとがあり、それぞれに対応した還元利回りで還元しなければならない(BRIEFING.74参照)。

またこの場合の減価償却費は、企業会計原則上のそれとは性格が異なること(BRIEFING.4243参照)に留意しなければならない。

さて、かつて収益還元法(直接還元)においては、次のBの方法が多用されていたが、近年Aが多用されるようになり、昨年の改正・不動産鑑定基準には、Aが一般的であることが明記されたところである。

@総 収 益 /取引利回り(表面利回り、粗利回り)=収益価格
A償却前純収益/償却前純収益に対応した還元利回り=収益価格
B償却後純収益/償却後純収益に対応した還元利回り=収益価格

BからAに変化してきた理由は、一般に償却前の純収益に対応した利回りで不動産の収益性が語られるようになってきたからとされている。その理由としては、次のようなことが考えられる。

(A)減価償却費は毎年のキャッシュフローに影響を及ぼさないため意識されない
(B)永久還元における減価償却費の意義・考え方が明確にされていない。
(C)有期還元において減価償却費が不要であることとの混乱がある。
(D)建物の残存耐用年数の見極めが困難であり、減価償却費が確定できない。
(E)@ほど大ざっぱではなく、Bほど面倒くさくない。

年々の減価は、その時点における効用の低下に加え、残存耐用年数の減少もあって加速度的に累積し、売却段階で一気に具現化する。減価償却費という潜在的費用が一気に顕在化するのである。キャッシュフローには表れない一種の含み損といってもよい。Aの還元利回りにこれが適切に折込まれているであろうか。

国債や社債は償還までに値動きがあるが最後は100で償還される。しかし不動産はそうではなく(土地の値上がりを期待する場合は別として)元本割れを当然見込んでおかなければならない。


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