BRIEFING.97(2005.8.4)

不動産鑑定評価とアスベスト等のリスク

耐火、遮音、断熱、防蝕等の目的で、建築物の鉄骨等への吹き付けに使用されてきたアスベストは、蛇紋石系及び角閃石系の繊維状鉱物で、白石綿、青石綿、茶石綿等がある。その人体への悪影響は、以前から指摘されており、すでに使用禁止の措置が取られているが、それ以前から存在する建物には、多く使用されている。

アスベストの使用禁止は昭和50年であるが、その後昭和55年までは吹き付けロックウールに混ぜて使用されている。これらに係る建物の解体には十分な対策が必要である。

また、解体せずとも、アスベストが露出したままの建物を使用することについても不安が高まっている。その対策としては、封じ込めと、除去とがある。

その費用は、封じ込め工法で15,000円/u程度、除去工法で20,000円/u程度と言われるが、正確には、その厚みや形状、足場の状態等で異なるであろう。

また、これらの工法で処理しても、その建物への精神的な不安はぬぐいきれない。

不動産鑑定業界では、土壌汚染が社会問題化した際、不動産鑑定評価基準を改正してこれに対応した。これにより、安易に「土壌汚染はないものとして」という条件を付けての鑑定評価はできなくなったと解される。アスベストの問題も同様と考える。

しかし不動産に内在するリスクはこれらに限られたものではない。活断層、軟弱地盤、地下埋設物、鉄筋の緊結不全、生コンの加水、シックハウス、PCB含有機器等、通常の外観調査からは判明しない問題が他にもある。

だが、これらはそれぞれの専門家が専門の技術を駆使してやっと判明することである。所有者が調査を拒否したり、意図的に隠蔽したりする場合もあろう。コストも多大だ。しかも実態が判明しても、その価格に及ぼす影響の程度はつかみにくい。

とすれば、これとこれは調べていません、おっしゃる予算で調査をしたらここまで判りましたよ、という鑑定評価も、メニューの1つとして用意しておくべきではないか。たとえば「建物の外観から、施工の質及び量は普通と想定した」といった具合である。よく調べもせずに「施工の質及び量は普通」などと書くよりは正直である。

もちろん、すべてを調査した鑑定評価書が高く評価されることは言うまでもない。しかしメニューは多い方がいいのではないか。


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