BRIEFING.98(2005.8.11)
敷金返還債務の控除(1)
ファンドに加え、個人投資家の参入により、収益物件の取得合戦が起きている。
さて、これらのビル・マンションの売買に際し、所有者(賃貸人)が賃借人から預かっている敷金をどう取扱うかを確認しておく必要がある。
新所有者は賃借人に対する敷金返還債務を承継することが原則であるから、それを踏まえ、その扱いには、次の2通りが考えられる。
@価格に込み(清算なし)。
A価格とは別途、現金清算(または相殺)。
一般に、東京ではA、大阪では「持ち回り」と呼ばれ、@の場合が多いようである。
ところで、ある賃貸中の不動産の価格について、@の価格(控除後)とAの価格(控除前)との差は、単純に承継する債務額に等しいと言えるであろうか。
というのは、債務と言ってもその返還を迫られるのは将来の解約・明渡し時であるからである。仮にすぐ解約になっても、後継テナントが同額の敷金を払込めば、一時の資金調達で済む。
とすれば、債務の返還は建物の寿命が尽きた時、ということになる。したがって建物の残存耐用年数が長ければ、その債務の現在価値はかなり圧縮されるはずである(BRIEFING.52参照)。
たとえば、Aの価格が1億円のテナントビルに、400万円の敷金返還債務が付着しているとした場合、債務をどのように控除するかにより、@の価格は次の様に異なってくる。建物の残存耐用年数は30年、割引率は年5%とした。
●単純控除・・・10,000万円−400万円=9,600万円
●割引控除・・・10,000万円−400万円×(1−0.05)30≒9,914万円
次回は、不動産鑑定評価の立場から、単純控除、割引控除のいずれが妥当か、また、控除するのは各試算価格の段階か、鑑定評価額の段階かを検討する。