BRIEFING.99(2005.8.18)

敷金返還債務の控除(2)

不動産鑑定評価では、賃貸中の建物に付着した敷金返還債務を、どのように扱っているであろうか。一般的には、これを考慮しない価格を鑑定評価額として記載し、参考として、その清算を別途行わない場合の売買価格はそれを控除したものになる旨とその債務額を付記する。

では、この場合の控除は前回述べた「単純控除」「割引控除」のどちらが合理的だろうか。

各手法の性格・仕組みを踏まえ、手法毎に検討してみる。

●原価法は、もともと賃借権の付着を想定しておらず、敷金返還債務も想定していない手法である。したがって積算価格は控除前の価格と言えよう。そしてこの場合の控除方法は、返還までの時間を考慮し、残存耐用年数による「割引控除」と考える。

●収益還元法の1つ、直接還元法では、敷金の運用益を年間の総収益に計上するが、それは債務を毎年割引いている(割引率=運用利回りとする)に等しい。したがって収益価格は割引による利益を反映しており、返還債務は「単純控除」すべきである。

●もう1つの収益還元法、DCF法では、収益期間終了後の処分価格を直接還元法で求めるため、その時点において「単純控除」されるべきものである。そして、手法の仕組み上、価格時点においては「割引控除」となる。

●取引事例比較法では、採用する事例について、すでに控除されているか否か、単純控除か割引控除か、によって求められる試算価格もそれに従うことになる。

以上のように、合理的な控除方法は、手法によって異なる。したがって、敷金返還債務の控除は、鑑定評価額の段階ではなく、各試算価格の段階で行うべきである。


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