BRIEFING.277(2012.05.07)

不動産の毎年評価と評価先例

不動産鑑定評価に誤差はつきものである。担当する不動産鑑定士によって鑑定評価額が異なってくることも広く知られているところである。

さて、不動産の証券化に関し、また企業会計に関し、毎年同じ不動産の時価を求めなければならない場合がある。

また、地価公示価格(1月1日)や基準地価格(7月1日)も当然毎年同じ不動産(更地を想定)を評価するものである。

これらの評価にあたって、前年の評価額を参照することは言うまでもない。そして過去1年間の価格形成要因の動向を意識し、前年評価額と矛盾しない今年の評価額を導き出すこととなる。

仮に前年の評価額を知らずに今年の評価額を求めたとしよう。すると誤差が影響し、前年評価額に価格形成要因の動向を加味した評価額とならない可能性がある。

たとえば、数%は下がっているのでは、と大多数の人が感じる時勢に、前年評価額より高い評価額が出てしまったり、10%も低い評価額が出てしまったりということがあり得る。

特に、一般的でない建物とその敷地、古い建物とその敷地等では、その可能性が高い。借地権付建物や底地(貸地)でも同様だろう。

更地ならその可能性は低いが、それでも安定的な「相場」の形成されていない地域、たとえば商業地域、林地地域等ではその可能性が高い。また、安定的な「相場」の形成されている地域の更地であっても、形状が悪い、段差や勾配がある、といった場合にはやはりその可能性が高い。

継続的に評価されている不動産の評価に当たり、前年評価額を参照することは、一種のカンニングとも思える。仮にこれを是としても、前年評価額にとらわれて真実を曲げることがあってはならない。

しかし一方で(特段の理由がない限り)広域的な不動産の価格動向を踏まえた安定的な価格の推移は、関係者誰もが期待しているところである。また、そうあるはずである。

不動産鑑定評価基準では、鑑定評価先例価格を「参考資料とし得る場合があり」と述べており、その位置づけは低い。

参考とすべき、あるいは参考としなければならないとすれば言い過ぎだろうか。


BRIEFING目次へ戻る