BRIEFING.479(2018.09.10)

一戸建住宅の利回り(2)

前回、一戸建住宅の賃料水準と価格水準が見合わない理由として、次の4つを挙げてみた。

@値上り期待説・・値上がり益は持家に恩恵があるが借家には少ない。
A増改築自由説・・持家と異なり借家では増改築が制限され利用価値が低い。
B利用効率説・・・一戸建住宅を借りても十分に使いこなせず非効率。
C税制優遇説・・・小規模宅地の相続時評価減等、持家には税の優遇がある。

それぞれについて検討する。

@は、一戸建住宅の市場価格の上昇が期待できる時(景気の改善局面、低金利等)に説得力を持つ。近年もその時期に当たるが、それまではバブル崩壊以降、一時期(リーマンショック前)を除いて地価はほぼ一貫して下落傾向にあった。その経験を踏まえてなお、説得力を有するか否か疑問である。事実、遠隔地の一戸建住宅の価格は近年でも下落を続けている上、景気の先行きも楽観できない。

Aは、同じ一戸建住宅でも、持家なら好きに増改築して使用収益できるが、借家ならそれが制限され、その結果得られる効用が低いから、というものである。いわゆる「契約減価」だ。ではなぜ、増改築自由な一戸建賃貸物件(賃料が高く取れるはず)が供給されないかという疑問が生ずるが、原状回復を義務付けた場合の賃借人の負担、義務付けなかった場合の賃貸人のリスク(汎用性喪失の可能性)等がそれを妨げているからと考えられる。だが、ワンルームマンションや事務所でも同じ問題を抱えているのに、価格・賃料は均衡するという疑問には適切な回答が見出せない。

Bは、一戸建住宅を借りても、毎日使うのは結局、その半分程度で利用効率が低く、それに見合った賃料水準しか形成されないという考えだ。これに対し、ワンルームマンションならフルに使うし、事務所も必要な面積しか借りないから、これらの価格・賃料は均衡するという説明ができる。但し持家でも一戸建なら利用効率は同様に低いではないかという反論がある。

Cは、小規模宅地の相続時評価減(330uまで80%減)、住宅取得資金の非課税特例(最大1,200万円)、住宅ローン控除(借入残高の1%を10年間最大500万円)等、持家には税制上の優遇措置があるのに、借家にはないからという考え。特に小規模宅地の相続時評価減は一戸建住宅を前提にした制度で、一戸建住宅の価格を(賃料水準に見合わない水準に)押し上げる効果があるものと思われる。戦後、国民の住宅取得を促進してきた政策の成果(副作用?)でもある。

こうして見ると、Cに分がありそうだ。

しかし、価格が極めて低ければ、その効果もないに等しい。

以下はネット上で見つけた賃貸中一戸建住宅(木造2階建、土地90u以上、建物70u以上)の売り希望価格、賃料、利回り等である。想像以上の修繕費、再築不可、越境、地盤不良等々の問題が隠れていることは容易に想像がつくが、それにしても利回りは極めて高い。さらに上がる(成約価格が下がる)可能性もある。これもまた一戸建住宅の利回りの一面である。

●千葉県山武市  築29年、440万円、5.8万円/月(15.8%)
●兵庫県神戸市  築32年、410万円、4.8万円/月(14.0%)
●兵庫県姫路市  築26年、310万円、3.4万円/月(13.2%)


BRIEFING目次へ戻る