BRIEFING.613(2024.01.22)

資産区分の相違による試算価格の方向性

ある鉄骨造2階建の店舗は敷地面積75u、延床面積120uで、飲食店経営を目的として賃借人に一棟貸しされているとする。賃料は24万円/月(2,000円/月u)だ。

賃貸人(所有者)はいわゆるスケルトン状態でこれを賃貸し、賃借人が内装は勿論、電気、厨房、給排水、空調、衛生、消防等の設備を施し(B工事またはC工事)、飲食店舗としている。そしてこれらは賃借人の資産であり、維持管理、修繕・更新の費用も賃借人が負担することとなっている。賃貸人の負担は、固資・都計税と損害保険料の他、屋根と外壁の修繕費くらいだろうか。

さて、この不動産が収益物件として売り出された。そこである不動産投資家が値を付けた。

スケルトンであることを考慮し、経費率を低目の20%と見積もり、純収益を4%として還元すれば、この不動産の収益価格は次のように試算される。

24万円/月×12月×(1−20%)÷4%=5,760万円

積算価格は次のように査定される。なお、建物の資産区分は、躯体も含めて賃貸人50%、賃借人50%とし、建物の経過年数等による減価率は50%とした。

土地:40万円/u×75u=3,000万円
建物:30万円/u×120u×50%×(1−50%)=900万円
合計:3,900万円

両試算価格の中間値は4,830万円だが、収益価格を重視し、5,500万円程度だろうか・・・。

ところが賃貸借契約書をよく見てみると、スケルトン貸しではなく、設備のほとんどは賃貸人の所有(A工事)であることが分かり、不動産投資家は次の通り値を付け直した。

収益価格は、経費率20%を35%に上げ、還元利回り4%を5%に上げた。

24万円/月×12月×(1−35%)÷5%=3,744万円(−35.0%)

積算価格は、建物の設備のほとんどが賃貸人所有ということで資産区分を100%賃貸人とし、経過年数等による減価率も60%に引き上げた。

土地:40万円/u×75u=3,000万円(変わりなし)
建物:30万円/u×120u×100%×(1−60%)=1,440万円
合計:4,440万円 (+13.8%)

結果、収益価格は−35.0%、積算価格は+13.8%となり、収益>積算は、収益<積算に逆転した。思わぬ維持管理・修繕費が生ずることになるから収益価格は下落、テナントの物と思っていた資産がこちらの物ということになって積算価格は上昇した、と説明できる。

賃料が定まっている収益物件については、賃貸人(所有者)と賃借人との資産区分の相違により、収益価格、積算価格は大きく異なってくる。しかもその相違の方向性は、両試算価格で逆となっているのである。


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