BRIEFING.621(2024.08.27)

「社会的割引率」の継続性と還元利回り

北陸新幹線の敦賀・新大阪間の延伸に関し、国交省が「費用対効果」を公表しなかったことについて「数値を精査できていないため」との説明があったという。そしてその「一因は費用対効果を算出する方法の変更を検討中であること」とのこと。その検討事項の1つは、将来の効果を現行の価値に換算する際に使う「社会的割引率」の引き下げである。

国交省は2023年6月の「公共事業評価手法研究委員会」において、公共事業においてこれまで適用されてきた社会的割引率4%の適用の妥当性について議論している。報告書からその主な議論を抜粋すると次の通りである。

●過去との比較・継続性の観点から、社会的割引率を4%として維持することは妥当。
●頻繁に変えるべきではないものの、状況の変化に応じて適切な見直しを行うことも必要。
●当時の情勢等から決めたことなので、時代にそぐわないのも事実。制度策定から20年経ち、4%が固定観念化してしまったことが問題。

確かに、過去の同種の事業との比較可能性を重視すれば率の継続性は重要だ。しかしゼロ金利の時代におかしいだろうというのもよく分かる。

この点、地価公示標準地の鑑定評価で採用される還元利回りはどのように運用されているだろう。以下は、東京・大阪の代表的オフィス街における標準地で採用された還元利回り(「基本利率−賃料の上昇率」で求められる)である。なお、1つの標準地をAB2名の不動産鑑定士が評価しており、両者間に若干の相違が見られる。




 
 千代田5-2(丸の内2丁目)    大阪北5-29(梅田1丁目)
    A     B     A    B
基本
利率
賃料の
変動率
還元
利回り
基本
利率
賃料の
変動率
還元
利回り
基本
利率
賃料の
変動率
還元
利回り
基本
利率
賃料の
変動率
還元
利回り
令和6.1.1 2.7  0.6 2.1 2.7  0.5  2.2 3.2  0.5  2.7 3.2  0.5  2.7
令和5.1.1 2.8  0.5 2.3 2.9  0.6  2.3 3.3  0.5  2.8 3.3  0.5  2.8
令和4.1.1 3.0  0.6 2.4 3.0  0.6  2.4 3.4  0.4  3.0 3.4  0.4  3.0
令和3.1.1 3.1  0.5 2.6 3.1  0.6  2.5 3.4  0.4  3.0 3.4  0.4  3.0
令和2.1.1 3.1  0.6 2.5 3.1  0.5  2.6 3.3  0.4  2.9 3.3  0.4  2.9

還元利回りは、収益還元法の適用に必要で「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むもの」(不動産鑑定評価基準第7章第1節Wの2)である。社会的割引率とは異なるものである。しかし過去5年間は上表の通り、固定的でなく、毎年マメに見直していることが分かる。

一方で、収益還元法は「先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段」(同基準第7章第1節Wの1)という役目も担っているにもかかわらず、上昇基調にある比準価格を追認、若しくは追随するために還元利回りを引き下げた(収益価格を上げた)とすれば、行き過ぎた可変性と言わねばなるまい。還元利回りにも「比較・継続性の観点」を持ち込めば、バブルの芽を早期に指摘することができるかも知れない。

利回りや割引率の変更は結果に大きな影響を与える。「社会的割引率」の行方を見守りたい。


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