BRIEFING.622(2024.09.05)
賃借人から仕掛ける期間満了前の解約と再契約
事業用建物の賃貸借では、定期借家の普及が進んでいるが、住居系ではあまり進んでいない。インターネット上の賃貸住宅の広告を見ても、ほとんどが普通借家で、定期借家は1割弱といったところではなかろうか。アットホーム(株)による「定期借家物件の募集家賃動向」を見てみると、東京23区全体で賃貸マンションに占める定期借家物件の割合は、2023年度は6.3%、2022年度では5.7%に過ぎない。
定期借家契約(借地借家法38条)においては、次の様な特約が可能である。
●原則:賃貸人・賃借人相互に賃料増減請求権あり → 排除(賃料固定型)
●原則:中途解約不可(賃借人からは一定の場合可) → 可能(中途解約可能型)
これから建物を賃借しようとする時、近い将来、賃料相場の上昇が見込まれるとすると、賃借人は賃料固定型の定期借家契約を選択するのも一考だ。住宅ローンの変動・固定の選択(低金利の今は変動、上昇が予想される時には固定)と同様である。
勿論、普通借家で値上げしないという特約も可能だが、賃貸人が認めないのが普通だ。
すでに普通借家で賃借している場合でも、賃借人から賃料固定型の定期借家への変更を提案してみるのも面白い(居住用では不可)。できれば新しい契約は解約可能型としておきたいが、賃料の引き下げと引き換えに解約不可を受け入れてもよいかも知れない。賃貸人としても、賃料の値上げはできないが、定期借家は歓迎だろう。
店舗の定期借家契約で、期間満了まであと1年間だが、内装・設備を更新したいという場合、賃借人は、再契約の合意ができない場合のことを考えてそれを躊躇してしまう。再契約がほぼ確実であるとしても、新規投資をしてしまうと、再契約の交渉で足下を見られ、不利な条件(高い賃料)を飲まされることになるかも知れない。このような場合には、今の契約の期間満了を待たずに合意解約し、新たに長期の(例えば10年間)の定期借家契約を提案するという方法が考えられる。合意できれば安心して新規投資を行うことができる。
賃貸人としても、新たに長期の契約ができれば安心だ。賃借人がきれいな設備で商売に励んでくれればビル全体の価値向上に結びつくだろうから悪い話ではない。
仮に今の契約が中途解約不可であったとしても、双方合意できれば全く問題ない。
今の建物賃貸借市場において、賃借人側から、継続中の契約の合意解除と、新たな契約の締結の提案をする、ということはあまりない。賃貸人は賃貸借のプロで、賃借人は素人であるためと考えられる。宅建業者も、新規の賃貸借契約の媒介は行うが、継続中の賃貸借契約に口を挟むことはない(非弁行為とも取れる)。
これからは、賃借人から積極的に上記のような提案を仕掛けてもよいだろう。