BRIEFING.633(2025.01.30)

3つの「残置物」問題(1)

賃貸住宅業界において賃貸人を悩ます問題の一つは賃借人の「残置物」である。建物賃貸借契約が終了した後、賃借人が建物内に残置して行った動産、即ち居室内に残された家財等の問題である。賃借人が、元通り何もない状態に原状回復し(できれば清掃もして)明け渡してくれると、賃貸人は大喜びなのだが、そうでない場合も多いのである。

ところで「残置物」に係る論点には次の3つがあり、ここでまず整理しておく必要がある。

@賃借人死亡後の残置物
A賃貸人の承諾を得ていない残置物
B賃貸人の承諾を得た残置物(次の賃借人も使用)

@については、家財等の残置物が(建物の賃借権も)故人の相続財産となるため、これらを賃貸人が勝手に処分することは許されない。しかし誰が相続人なのかを調査するのは大変で、仮に相続人が判明し連絡が取れたとしても、すぐに対応してもらえるとは限らない。賃貸人とすれば、さっさと処分して次の賃借人に貸したいところである。社会的にもその方が合理的とも思える。

また、勝手な処分ができないとなると、死亡する可能性が高い高齢者に居室を貸すことを躊躇する動きにつながりかねない。それは賃貸人の合理的な行動である。

そこで国交省と法務省では、単身高齢者の居住の安定確保を図るため、死後事務委任契約を締結する方法を検討し、単身高齢者の死亡後に、契約関係及び残置物を円滑に処理できるように「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定している。

そしてこれを使いやすくした「解除関係事務委任契約」と「残置物関係事務委託契約」を1つにまとめた契約書式と、それぞれを別にした契約書式も用意されている。受任者が同一なら前者、別なら後者を利用することになる。さらに、これらを賃貸借契約に特約条項として盛り込む際の記載例も公表されている。

受任者としては、賃借人の推定相続人のいずれか、または居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人等が想定されている。

今後、日本では、高齢単身世帯の増加が確実視されている。ソフト面を整備し、それに対応できる賃貸住宅の安定供給が望まれる。

さて、賃借人が健在である場合、賃貸借契約の終了に際し、賃借人が借りていた建物を原状に回復して賃貸人に明け渡さなくてはならないのは当然である。多くの場合、その旨、契約に定められている。しかし、それに反し、明渡し後の居室に残置物があった場合、賃貸人はそれにどう対処すべきであろうか。冒頭のAの問題である。

これには、契約書に、残置物があった場合には「賃借人がその権利を放棄したものと見なし、賃借人はそれを任意に処分することができる。」と定めておけばトラブルを避けられるだろう。加えて「その処分費用は賃借人の負担とする。」としておけばなおよい。

しかしこのような約定がない場合や、明け渡しがあったのかがハッキリしない(例えば夜逃げのような)場合、勝手な処分は禁物である。その所有権が誰にあるのか確かめる必要がある。


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