BRIEFING.640(2025.05.08)

直接還元法における運営純収益と純収益(3)

法人税基本通達第7章第8節には次の通り「資本的支出」の定義らしきものと、その例が示されている。

「資本的支出」・・・固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額(例については省略)

「修繕費」については定義らしきものもなく、例示のみである。

なお、所得税基本通達第2編第1章第1節第2款の「法第37条関係」にも同様のことが定められている。

一方、不動産鑑定評価基準各論第3章第5節のUには、これらについての定義がある。

「資本的支出」・・・対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出

「修繕費」・・・対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復するために経常的に要する費用

内容は、法人税基本通達から、ほぼそのまま拝借した感じである。

同通達は、「費用収益対応の原則」の考え方から、資本的支出は一旦資本計上してから減価償却で費用化、という経常利益類似の概念を重視した結果の産物と思われる。収益に対応した部分しか損金算入させませんよ、という趣旨でもある。

それに対して、DCF法がこれらを区別する意義は、数年に1度しか発生しない費用(資本的支出)を、割引率によって現在価値に割り引いて、より精緻な収益価格を求めることにあるから、その区別の重点は、「費用収益対応」ではなく、現金の出て行く時期とその額の予測にあるとすべきである。

したがって「価値を高め、又はその耐久性を増すこと」にこだわる必要はなく、価値の維持に過ぎない修繕であっても、数年に1度で金額の大きいものなら「資本的支出」とすべきであろう。会計上・税務上の「資本的支出」とややこしくなるなら、「通常修繕費」と「大規模修繕費」にでもすればよい。

また、支出の時期を反映させることのできない直接還元法については、これらを区別する意義はないに等しい。区別してもしなくても、結論(収益価格)に影響を及ぼすことはないのだから。

しかし投資家は、「純収益」の前に一旦「運営純収益」を求め、それを重視するとも言われる。その理由としては、資本的支出を平準化することが困難(無理にしても信頼性が低い)だからではないだろうか。有り体に言えば「よく分からんことを適当に見積もるな」といったところであろうか。

また、そもそも資本的支出は投資家自身が判断すべきもの、ということではないだろうか。通常の修繕費さえ分かればよい。この建物にこれからどの程度投資してゆくかは大きなお世話だ。多額の資本的支出によって「価値を高め、又はその耐久性を増すこと」で賃料を上げ、長期的に運用してゆくのか、逆に資本的支出を控えて、建替を視野に運用してゆくのか、それは経営判断だというのだ。

直接還元法における資本的支出の区別の必要性と平準化の方法は、もっと議論されるべきである。


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