BRIFING.644(2025.06.12)

SRCで命を守れ

S、RC、SRCとは何か、当コラム読者諸氏には説明するまでもないだろう。だが、今回取り上げるSRCは、建物に関する言葉ではあるものの、火災の際に自らの命を守る方法に関する言葉である。建物の構造上、避難が難しい場合に有効で、日頃からそれに備えておくことが必要である。

令和3年(2021年)師走、大阪市北区のビル火災は、死者27名を出す大惨事となった。そのビルは「特定一階段等防火対象物」であり、不特定多数の人が利用するにも関わらず、避難のための屋内階段が1つしかない建物であった。

防火対象物とは、建築物など火災予防行政の主たる対象となるもので、消防法第2条に定義があるが、建築物のほか、山林や係留された船舶なども含まれる。これに「特定」が付くと、防火対象物のうち、特に多くの人が利用し、火災時に避難が遅れたり大きな混乱を招きやすい建物で、消防法施行令別表第一に示されている。

「特定一階段等防火対象物」は消防法施行規則第23条(自動火災報知設備の感知器等)第4項第7号へにその定義を見ることができるが、非常に難解である。これを簡単に言うと、3階以上の階に特定防火対象物の用途が存在する防火対象物で、階段が1つしかないものと言うことができる。

火災は通常、火元から燻って煙が発生し、やがて小さな炎が上がる。その段階で初期消火または避難をすれば、大きな災害にはつながらないはずだ。しかし、ガソリンを撒いて火を付けたりすれば、炎と煙が一気に上がって「特定一階段等防火対象物」にいる人の中には逃げ場を失う人も出てこよう。前述の火災は正にこんな具合であったと思われる。

これを教訓に取り入れられたのが、SRC、セルフ・レスキュー・コーチング(Self Rescure Coaching)なのである。大阪市消防局では、全国に先駆けてその普及に取り組んでいる。

SRCによって指導してもらえる具体的なセルフレスキューの方法としては、煙の流入防止のためのテープによる目張り、避難器具の使用方法、外気呼吸姿勢、2階からのぶら下がり避難などである。扉の隙間にテープで目張りをするのは、逃げ場を失って火元から離れた部屋に逃げ込んだ場合に、煙を吸わないようにして救助を待つ場合であるが、その可能性がある部屋にテープを日頃から用意し、そのことを周知しておく必要がある。その時になってあちこち探していては間に合わない。

また、VR(バーチャル・リアリティ)によって火災現場からの避難を模擬体験できる。ビルの廊下の上半分が真っ黒い煙に覆われ、視界が奪われるが、姿勢を低くすれば多少遠くが見渡せることが分かる。模擬体験とは言え、体験の有無が万一の時に生死を分けることになるかも知れない。

「特定一階段等防火対象物」に居る人はそのことを自覚し、SRCによる技術を身につけて、いざという時役立てるべきである。それをコーチングしてくれるのが、鉄骨鉄筋・・・ではないSRCなのである。


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