BRIFING.646(2025.09.05)

試算価格が単一の場合と複数の場合

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、@原価法(求められる試算価格は積算価格)、A取引事例比較法(同・比準価格)及びB収益還元法(同・収益価格)であり、これらの3手法は、価格判定の基本となる手法である。しかし、現実にはこれら全ては適用できないことがあり、やむを得ず、そのうちの2つ、または1つのみから求めた試算価格から鑑定評価額を決定しなければならないことも少なくない。

例えば、一戸建住宅地(更地)についてはどうだろうか。

@は土地の再調達原価の把握が困難であり適用が難しい。
Aは土地残余法による想定建物(一戸建住宅)の賃料の把握が困難で適用が難しい。
Bは取引事例の収集が比較的容易であり適用は容易。

その土地が、最近林地・農地を開発した宅地または埋立てた宅地である場合を除き、上記@の通りである。仮に求められたとしても、代替競争の関係にある土地が、山林・農地開発または埋立てによって調達されている現実がないなら、それは市場参加者の行動原理を反映しておらずあまり意味がない。

また、一戸建住宅が賃貸されることは少ないため、成熟した賃貸市場がなく、賃料相場が形成されず、上記Aの結果となる。辛うじて相場のようなものがあって、収益価格を求めたとしても、建物の新築・賃貸を目的にその土地を取得する人はまれだから、それは市場参加者の行動原理を反映しておらずあまり意味がない。

しかし、一戸建住宅地の流動性は高く、街路条件、交通接近条件等の相違が地価に及ぼす影響の程度も、経験的に概ね推定でき、Bの結論となる。市場参加者もこれと同様の考え方で地価を把握するであろうから、その比準価格は重要な意味を持つ。

したがって、一戸建住宅地の試算価格はBのみで求められる。賃貸アパート(賃料相場の把握が可能)の新築を想定してAも適用可能な場合があるが、その重要性は低い。

試算価格の調整から宅地の鑑定評価額を決定する過程は次のように分類できる。

(1)試算価格が比準価格のみの場合
  ア.その比準価格をそのまま鑑定評価額と決定
  イ.求められなかった収益価格も想定・勘案し鑑定評価額を決定
(2)試算価格が比準価格他複数の場合
  ア.重視すべき1つの試算価格を鑑定評価額と決定
  イ.それぞれの試算価格を勘案し鑑定評価額を決定

(1)の場合、アが基本となろう。但しかつては一戸建住宅地において、求められなかった収益価格(もし求められたら非常に低い)を念頭に、比準価格を若干下方修正して鑑定評価額とするものがよく見られた。(2)の場合、一戸建住宅地ならア、共同住宅地、商業地ならイであろう。それぞれ、単一試算価格非修正主義、単一試算価格修正主義、重視試算価格独断主義、複数試算価格調整主義といったところだろうか。

試算価格はともに等しく正常価格を指向するものとして尊重されるべきである。その上で、市場参加者の視点を踏まえ、それらの説得力の違いを、調整に反映しなければならない。


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