BRIFING.647(2025.10.09)
継続賃料の経済賃料重視主義と約定賃料重視主義
近年の物価や地価の急上昇に伴い、土地や建物の賃料改定が進められている。新型コロナの蔓延で見送られてきた交渉も、その収束後、進んでいるに違いない。しかし、それまで長期に渡って物価と地価の低迷が続いていたため、賃料の改定があまり行われず、賃貸人も賃借人も「甲乙協議の上、改定」するノウハウを忘れかけていたのではないだろうか。若い業界人にとっては初めての交渉となったかもしれない。
賃料の改定交渉は、双方とも契約関係から離脱できない中で、何とか妥当な接点を探り、譲歩し合って妥協して合意にたどり着く過程であり、人間力を試される場でもある。
売買契約や、最初の賃貸借契約においては、不満なら契約しないという選択肢が双方にあるのだが、継続中の賃貸借契約ではそうはいかない。そして、賃料の増減請求の根拠は、借地借家法第11条(地代)又は第32条(家賃)にあるのだが、その具体的増減額や率を決める方法はどこにも示されていない。
そんな中、不動産鑑定評価による継続賃料の評価はその問題の解決に寄与するものである。
継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(直近合意時点)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上、決定するものである。
継続賃料を求める鑑定評価の手法としては、@差額配分法、A利回り法、Bスライド法、C賃貸事例比較法などがある。
これらの手法のポイントは、@は新規賃料と実際賃料の間に生じた差額をどう配分するか、Aは直近合意時点の利回りをどう調整するか、Bは直近合意時点の純賃料をどのような変動率で調整するか、という点にある。不動産鑑定評価基準にはもう少し詳しく書かれているが、その受け止め方には幅があり、導かれる結論は鑑定評価の主体によって多少(時には大いに)異なることがある。
その相違が生ずる原因は、次の2つの相反する考え方の存在ではないだろうか。それは各手法の結論に影響を及ぼす。
1.経済賃料重視主義・・賃料は常に適正な経済的価値を反映した額とすべき。
2.約定賃料重視主義・・合意された賃料の変更・調整は最低限に止めるべき。
今の公平重視か、過去の約束重視かの差、と言うこともできる。また、1の背景には、毎月の使用に対し毎月適切な賃料を払うというイメージがある。2の背景には、動産の長期リース契約に近いイメージがある。一旦契約したら買ったのと同様、その後その物の価値が変動しても、後で代金を追加払いまたは一部返金したりはしない。2つの考え方の間で、頼られるべき鑑定評価も揺れている。
「甲乙協議」の最先端に立つ諸氏の検討を祈る。