BRIEFING.240(2011.03.02)

農地転用の規制強化で“転用”の邪念を打ち払え

TPP(環太平洋経済連携協定)への参加・不参加が、我国の将来を見通す上での重要な論点の1つとなっている。これに関して、日本経団連も先頃、企業の農業への参入要件の緩和、農地の売却・賃貸の促進等、農業改革への提言を発表したところである。

さて、建設・開発・不動産に関わる人の多くは、農地の宅地転用許可に重大な関心を抱いてきたところである。それは決して転用の緩和を望むものではなく、その不透明さに対するとまどいと言ってもよい。

そこでこの際、(市街化区域内農地を除き)転用の規制をさらに強化してはどうだろうか。例外なく転用不可としてもよい。建設等に関わる人々にとっても、スッキリするし、企業の参入で農地が宅地化されることを憂慮する人達も安心できるはずである。

その結果、それじゃあ、農地を持っていてもしかたないや、という人がでてくれば、農業経営を目論む会社がそれを買いやすくなる。ひょっとするとそういう人がたくさん出てくるかも知れない。転用期待で農地を持つ人は少なくない。

もちろん転用不可は絶対である。したがって価格は安いが、農業を守るという意味で安心して売却してもらえることにもなる。現物出資で株主になってもらうのもよかろう。

ところで、もし工業にも株式会社の参入規制があったならどうだろう。おそらく、鍛冶屋や陶芸家といった職人がそれぞれに工業製品を作る、といった江戸時代そのままの業態が予想される。農協ならぬ工協はあったかも知れぬが。

そうすると、工業は株式会社がやってこそ世界に羽ばたくことになったとは考えられまいか。とすれば農業も株式会社が行うことにより、トヨタやソニーになり得るのではないか。

取締役が耕作者である必要はないし、耕作担当以外の従業員、たとえば営業、研究開発、人事総務、経理の担当者も必要であろう。溜池や水路の管理、農機具の有効利用も組織でやる。勤務時間も決め、時間外や休日勤務手当も欠かせない。求人も行う。

その実現のためには、関係者がまず“転用”という邪念を打ち払わなければならない。そうすることで農地は、耕作意欲のない人には何の価値もない物になり、意欲ある人や会社にとってのみ価値が生じ、自ずとそこへ集中することになるはずである。

品種改良や栽培技術の改善も進むだろう。株式の上場も夢ではない。邪念を打ち払うことによって。


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