BRIEFING.250(2011.05.30)

東証住宅価格指数は「リピート・セールス法」

東京証券取引所は、4月から首都圏の中古マンション価格の動向を表す「東証住宅価格指数」の公表を始めた。(財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)から提供された成約事例を元に算出するもので、不動産価格の指標として活用が期待されている。

今はまだ試験的な公表で、これに絡んだ金融商品などはない。

さてこの指数は、同一住戸、または同棟・同階・同面積の住戸が、時を経てどのような価格で取引されたかに着目して求められる。2つの売買価格のペアについて、それぞれの時点の価格水準を回帰計算によって指数化したもである。

東証によると、指数の各時点に各住戸の売買があるわけではないため、2つの「成約価格の変化を総合的に勘案するように統計的推定を行うことで指数値を算出」するという。これは「リピート・セールス法」と呼ばれ、米国ではすでに活用されている手法だそうだ。

しかし同一住戸であっても、2つの時点における内装・設備の相違があろうし、そのマンション固有の事情(大規模修繕の必要性が生じているなど)もあろう。それらが指数に反映されるおそれがある。

この点、東証によると「増改築等により取引された不動産に変化がある場合や、短期売買など算出に用いるデータペアに含めないことが適切と判断されるものは除外」するという。

「適切と判断」というところにやや危うさがある。しかし不動産には1つとして同じ物がなく、株式や国債のように毎日同じ物が大量に売買されているというわけではない。機械的に処理すると返って実態を反映しない結果になりかねず、しかたあるまい

が、短期売買で価格が2割、3割上昇(バブル期には珍しくなかった)という場合、「含めないことが適切と判断」すべきかどうか悩ましいところだ。

また、建物部分については、常に価格下落圧力がかかると考えられる。時の経過に伴う老朽化は避けられないからである。だが、土地と建物の価格とが合わさることで、その必然的下落圧力は圧縮され、対前年比で見るなら無視できる程度かも知れない。

東証によると「保有期間の長い物件の成約価格」については「指数値に反映される度合いを下げている」という。確かにこれで欠点は薄められる。

しかし、住宅市場が完全に不変とすれば、この指数は、単に建物が1年古くなれば全体でどれくらい安くなるかを表すものとなるから、これをもって「住宅価格指数」と言ってしまうことには一抹の不安がある。


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