BRIEFING.261(2011.11.21)

改訂・原状回復ガイドラインの「残存価値」

賃貸住宅における原状回復義務には、経年劣化・通常損耗に係るものを含まないのが原則である。しかし、生じた汚損が経年劣化・通常損耗によりものか、故意・過失・善管注意義務違反等によりものか、判断の難しいところである。

そこで国交省は、トラブルの未然防止の一助となるよう「原状回復ガイドライン」を作成・公表している。今夏にはその再改訂があったが、そのポイントのひとつは「残存価値割合の変更」である。

さて、賃借人の過失で何かを傷つけてしまった、たとえばエアコンをこわしてしまった場合、賃借人は明渡しまでに自己の負担でこれを原状に回復しなければならない。

でも、そのエアコンがすでに何年か使用した物であったなら、新品に替える必要はない。かといって中古の同種エアコンを捜してきて付けることは不可能だ。そこで、経過年数を考慮した残存価値相当額を支払うことでこれに代えなさいというのがガイドラインの示すところである。

なおガイドラインは、「経過年数による減価割合については、『減価償却資産の耐用年数等に関する省令』を参考とした」と述べており、必ずしも税法上の減価償却を強制しているわけではない。今回の再改訂でも「参考」という扱いに変わりはない。

但し、「償却年数経過後の残存価値は10%となるようにして賃借人の負担を決定してきた。」ところ、「平成19年の税制改正によって残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ・・・賃借人の負担を決定する。」と、税制の改正に倣った改訂がなされている。

エアコンの法定耐用年数は6年である。そもそも6年経過したエアコンの原状回復費が新品の10%でよいというのも首肯しがたい(実際はもっと使える)のに、再改訂で原状回復の負担なしとはいかがなものか。

そもそもこの税制改正は、企業の法人税負担を軽減し、国際競争力を高める目的ではなかったか。原状回復費とは関係ない。

われわれは普通、耐用年数が過ぎた物でも大切に使うし当然にその価値を認めてきた。それどころか古い物ほど大事に扱うといった感覚も持ち合わせている。今回の改正が「古いものには価値がない」「壊してしまってもよい」といった考えにつながってはまずい。

ガイドラインは「経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく・・・」と述べている。辛うじて救われた思いである。


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