BRIEFING.280(2012.07.02)

市場が求める用途と指定用途

国道に沿ったある大規模工場が取り壊され、大規模な家電量販店の建設が進められている。その土地の、都市計画法上の指定用途は工業地域であり、駅からも距離がある。しかし、大消費地につながる国道に面しており、店舗敷地とすることは妥当な選択と考えられる。

しかし、都市計画法によれば工業地域は「主として工業の利便を増進するため定める地域」であり、店舗の建設が禁じられている訳ではないにしろ、同法の目的「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り・・・」を勘案すれば好ましい土地利用とは言えない。

商店街の中に賃貸マンションが出現することもある。元の店舗所有者が店を畳んで賃貸マンション経営に転じたのであろう。1階が店舗ならまだよいが、エントランスと駐輪場であれば店舗の連坦性が途切れて、商店街のシャッター通り化に拍車を掛けることになる。

許される用途に幅があるため、このように用途の混在が生ずるのである。

しかし用途の変遷は、長い歴史の中では生じても不思議ではなく、町の性格や規模、社会の姿などの変化により、生じるのが当然と言えよう。

むしろ時代時代の要請に応え、指定用途を柔軟に見直すべきかも知れない。

商業地域の事務所・店舗ビルが取り壊され、超高層マンションが出現する例は多い。用途の混在ではあるが、都心に夜間人口が戻ってくることは、むしろ歓迎されていると思われる。

そもそも用途の指定は既存の用途を追認する形で行われてきたと思われる。すでに商業地となっていた所は商業地域、工業地域となっていた所は工業地域といった具合である。したがって、それは当時の市場が生んだ、最も合理的な住み分けだったと考えられる。

しかし今の市場はそれに満足できず、用途規制という頑なな箍(たが)の中でもがき苦しんでいるのではあるまいか。

ただ、用途の見直し、特に指定容積率の緩和は一種の錬金術であり、利権の温床にもなりかねず、慎重さが求められる。

市場の働きを生かし、特定の者への利得は生じない。その実現には関係者の英知が求められる。


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