BRIEFING.282(2012.07.26)

実務上の「更地」

「更地」とは「建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう」(不動産鑑定基準)。

この定義を厳密に適用すると「更地」は極めて限られたものになってしまうため、実務上は、この定義を若干緩和して「更地」を認めている。

たとえば、造成された宅地に擁壁があっても、庭木が残っていても、アスファルト舗装されて月極駐車場になっていても「更地」と判断するのが一般的である。

では、実務上の「更地」の判断基準はどこにあるのだろうか。

定義の前半は客観的に明らかな物、建物・構築物等がないという物理的要件、後半は借地権や地役権等の目に見えない(登記簿には記載がある場合がある)他人の権利の付着がないという私法的要件と言うことができる。

物理的要件には、樹木、大きな石、舗装、従前建物の基礎、引込み水道管、土壌の汚染等があった場合はどうかといった問題がある。この場合、次の2点が判断基準になるだろう。

@除去費用が、その土地の価格に対して無視できる程度か。
Aその土地を地域における標準的な使用に供する場合に不都合がないか。

@Aのどちらかを満たせば「更地」としてよいだろう。たとえば、地下に従前建物の杭が残存していても(その撤去費用は莫大だが)、標準的な建物を建てるのに支障がなければ「更地」と言ってよい。

私法的要件にも、建物所有目的でない借地権、送電線のための地役権、地下鉄のための区分地上権、隣接無道路地のための通行地役権等があった場合はどうかといった問題がある。この場合も、上記@Aを準用してよいと考えられる。

たとえば駐車場や資材置場としての借地権(債権)が付着している場合、1年以内で無償返還されるなら、その除去費用は無視できる程度と言えよう(その土地の転得者にとっては無視しうる権利である)。

また、地下鉄のための区分地上権(物権)があっても、標準的な建物を建てるのに全く問題がなければ「更地」と言ってよいのではないだろうか。

なお、用途地域による用途や容積率の制限、航空法による高さ制限等は、公法上の制限であるから「更地」かどうかの判断には関係しない。埋蔵文化財の存在も、物理的・私法的な問題ではなく、公法上の問題であるから関係しないと解する。

しかし「無視できる程度か、不都合がないか」の判断には微妙な部分が残る。


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