BRIEFING.284(2012.08.20)

「専門家の判断」が抱える「問題」

国際的基準金利であるLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の決定過程に不正な操作があったこと、また、それを防ぐ仕組みが不十分であったことが大きな問題となっている。

LIBORには、通貨別・期間別に「6ヶ月米ドルLIBOR」や「3ヶ月円LIBOR」等がある。これらは住宅ローンの利率やしくみ債の利金算出等に重要な役割を果たしているため、その決定に恣意性が介在することは許されないのである。一定のルールに基づいて算出される、しかも人間の判断や査定によって歪められることなく算出されるものでなくてはならない。

そこには、自らの利益のためといった悪意はもちろんのこと、より市場実態に見合ったものに調整しようといったお節介もあってはならない。

しかし実際には、新聞等でご承知の通り『その日の午前11時時点で、まとまった金額をやり取りできると各行が考える金利水準』を基礎として決定されているという。これでは何だか頼りない。

英金融サービス機構(FSA)では、LIBOR改革案の作成を進めている。

先頃発表されたその論点メモは、その算出方法が「実際の取引より専門家の判断に頼っている」ことを問題視している。

FSAのウイートレー専務理事は、「何百兆ドルもの金融商品の価格を決定するという目的にもはや適していない」とまで述べている。

さて、成熟した市場を持つ通貨と違い、同じ物が2つとない土地、その取引の指標とすべき地価公示価格(1月1日時点)、基準地価格(7月1日時点)はどうだろう。

これらに関しては、(恣意性は論外として)判断・査定は避けて通れない。お節介も容認、いや、推奨されていると言ってもよい。

なぜならば、不動産市場は不動産そのものの持つ特性、固定性・不動性・永続性・不増性・個別性等により不完全であり、したがって、人間(専門家)が市場に成り代わって価格を査定・判断しなければならないからである。

その結果、「実際の取引より専門家の判断に頼っている」という問題を抱えている点はLIBOR以上となる。

不動産鑑定評価に係わる「専門家」は、このことが「問題」であることを常に意識していなければなるまい。


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