BRIEFING.359(2015.02.26)

取引の事情が正常か否かの判断

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別される。

これらのうち、取引事例比較法によって求められた試算価格を比準価格と言い、収集・選択された取引事例との比較によって導き出される。そして収集された事例から適正な事例を選択する段階は大変重要である。選択の如何で求められる価格が左右されるからである。

不動産鑑定評価にあたっては、不動産鑑定士が“適正な事例”を選択する。もちろんそこに恣意性や先入観があってはならない。が、逆に何の予備知識もなく各事例に向かい合い“適正な事例”を選択することはむずかしい。選択に当たっての要件は次の4つである。

@近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等のもの。
A取引の事情が正常又は補正可能。
B時点修正が可能。
C地域要因・個別的要因の比較が可能。

この4つを2つに大別すると、客観的に判断しやすく他者による検証が可能な@BCと、それらが困難なAに分けることができる。

上記A「取引の事情が正常」であるか否かは当事者の主観に関わることであるから、外観から判断することが困難なのである。そこで、時点修正、地域要因・個別的要因比較の上、取引価格が適正か否かでそれを推し量っているのが実態ではなかろうか。取引価格が適正なら事情は正常、適正でなければ特殊な事情が介在したのであろう、と判断するという訳だ。

さらに推定を重ね、取引価格が適正でない程度が、すなわち事情が正常でない程度であろうと見做し、補正(「事情補正」という)可能、と判断する場合もある(これには批判も多い)。

一方、そもそも取引価格が適正か否か判るぐらいなら、最初から対象不動産の適正な価格も判るのではないか、との疑問・批判がある。

また、特殊な事情といっても、価格に少ししか影響を及ぼさないもの(例えば3%とか4%とか)はどうするのか、取引価格に影響した程度を測定できるのか、そもそも事情のない取引なんてあるのか・・・。

不動産鑑定評価はこれらの疑問に答えていかねばならない。事情補正がデータの偽装や捏造ではないと言い切る論拠を示さねばならない日は近いのではないか。


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