BRIEFING.379(2015.11.26)

企業立地優遇制度と地価

平成27年度税制改正において、地方拠点強化税制が創設されている。地方拠点建物等を取得した場合の投資減税の創設や雇用促進税制の拡充が主な内容である。

これは、所得税法等の一部を改正する法律として本年3月末に成立・交付、4月1日には一部を除いて施行されている。

支援対象地域は、東京圏、中部圏中心部、近畿圏中心部を除く地域である。

制度は、拡充型と移転型に分かれ、前者は地方にある企業の本社機能等の強化を支援するもので、後者は東京23区からの移転の場合にそれ以上の支援を行うものである。

例えば、自治体が固定資産税、不動産取得税の減免を行った場合、交付税で減収額を国が補填する。移転型の場合はこれに加えて、事業税についても交付税で減収額を補填する。

自治体は思い切った税の減免ができることになる。

これらの優遇措置の多くには、早期撤退した場合のペナルティーも用意されている。かつて兵庫県尼崎市や三重県亀岡市における誘致企業の早期撤退で、明確な返還請求根拠を持たない県との間でトラブルが生じたことを踏まえてのことだろう。これにより、進出企業は一定期間撤退が難くなるものの、期間が過ぎれば潜在的返還債務が消滅し、完全にその利得を手にすることとなる。

ところで、多くの自治体が同等の優遇措置を用意したらどうなるだろうか。優遇のうまみは相対的に低下し、逆に優遇のない自治体はその差を埋めるべく土地の販売価格を引き下げる必要が出てくる。

そしてもし、土地を将来売却する場合、買主に同様の優遇措置がないとすれば、その分、土地の価格は低下すると考えられる。それは含み損を抱えた状態と言うこともできる。

せっかく免税や補助金で利得を得たのに、転売する際にはそれを相殺しかねない損が生ずるおそれがあるのだ。これでは当初の進出意欲もそがれる。取得価格同等の価格での転売が想定できるよう、将来の買主にも同等の優遇を約束しておかなければなるまい。

もちろん、工場の進出・撤退の意思決定は、製品の需給量や価格、原材料価格や賃金、金利の動向といった事情に依るところが大きいだろう。将来の地価も分からない。

しかし、優遇付の土地と、付いていない土地との価格差は、その優遇による利得に等しいと言うことができる。


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