BRIEFING.391(2016.04.07)

曳家の活用で再開発

2月5日、都市の国際競争力と防災機能の強化を実現するとともに、コンパクトで賑わいのあるまちづくりを進め、あわせて、住宅団地の再生を図るための「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。

この法案の中には都市再開発法の一部改正が含まれ、それにより、更地化を前提としない市街地再開発事業が可能となる見込みである。これまでは、施行区域内のすべての既存建築物を除却することが前提であった。

具体的には、有用な既存ストックである既存建築物を、曳家(移転)や移築によって区域内の1カ所に集め、できた空間に新たな施設を整備するといったことが想定されている。

ところで、建築基準法の「建築」の中には「新築」「増築」「改築」「移転」がある。

「移転」は聞き慣れないが、建築物を解体することなく同一の敷地内の別の位置に移すことを言う。広義には他の敷地に移すことも含まれるが、その場合、建築基準法上は「新築」や「増築」と扱われる。

「移転」とはつまり「曳家」(ひきや)である。今回の法案で、着目されることになるかも知れない。

しかし、曳家に光が当たったのは唐突なことではない。平成27年6月に施行された建築基準法の一部を改正する法律でも、これを見直す改正がなされている。

従来から、既存不適格扱いの建築物は、同一敷地内で「移転」しても、引き続き既存不適格扱いが認められてきた。しかし他の敷地への「移転」は、現行法規に適合させる為の改修が必要(つまり新築扱い)とされてきたのである。

昨年の改正では、他の敷地への「移転」であっても、特定行政庁が、交通上、安全上、防火上、避難上、衛生上及び市街地の環境保全上支障がないと認める場合、既存不適格扱いが可能とされた(同法第86条の7第4項)のである。

それが布石だったのか、今回閣議決定された法案は、さっそくこれを活用し得る内容となっている。

再開発によって惜しまれつつ解体されてゆくはずであった歴史的建築物、神社仏閣、旅館等が、これによって救われるかもしれない。また、その存在が再開発の妨げとなるのを防ぐことにもなる。

保存と開発、両立の途が開かれたと評価できる。

今後は曳家技術のさらなる向上が望まれる。


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