BRIEFING.438(2017.07.24)

標準的使用を疑え!

不動産鑑定評価において、更地の価格はその土地の最有効使用を前提として把握される。そしてそれは、その地域(近隣地域)における標準的使用を標準として、その土地の個別性(規模、形状、接面状況等)によって修正・決定されるものであるから、最有効使用の判定にあたっては、まず、近隣地域における標準的使用を把握することが重要である。

標準的使用は、近隣地域における標準的な土地(個別性のないまたは低い土地)の最有効使用であるとも言えるから、逆に、標準的使用の把握に際して標準的な土地の最有効使用を念頭に置くことも必要である。近隣地域内に、標準的な土地が少ない場合(案外多い)には特に必要な視点だろう。

これらの判定にあたっては、@最近取得された土地か、A市場の価格で取得された土地か、という観点も忘れてはならない。

古くからの駅前商業地域における標準的使用を「低層店舗兼住宅の敷地」と判断したものの、@の点を重視すると違うもの、たとえば「一戸建住宅の敷地」となるかも知れない。駅前の繁華性が失われ、店舗は昔からのものが残っているだけ、という場合だ。

また、同様の地域で土地活マンションが増えつつある地域なら、標準的使用を「小規模賃貸共同住宅の敷地」と判断しがちであるが、Aの点を重視すると違うもの、たとえば「一戸建住宅の敷地」となるかも知れない。賃貸マンションを建てているのは、店舗を閉めた昔からの地主だけ、という場合だ。

言い換えると、@変化の傾向を踏まえた標準的使用の把握と、A市場価格を踏まえた標準的使用の把握が必要ということになる。

特に留意すべきはAである。

土地区画整理中の仮換地の多くに、新たにクリやミカンが植えられているなら、それがその地域の標準的使用であり、標準的な宅地(?)の最有効使用も果樹園かと思ってしまう。しかし、相続や換地処分で土地を取得した人は、最近の選択であったとしても、その市場価値を反映した使用方法の選択ではない場合が多いのだ。

さらに誤認されやすいのは、賃貸マンション・アパートが中心となっている地域である。近年、相続税の基礎控除額の引き下げもあり、その新築が目立つ地域がある。その多くは、新たに土地を取得して建てられたものではないため、その使用方法は土地の市場価格を反映したものではないと考えられる。

@Aを踏まえない標準的使用の判断は、近隣地域の地価水準を誤認させ、その土地の最有効使用と価格とを誤認させる可能性が高い。

なお、最有効使用さえ誤らなければ標準的使用は見かけの標準的使用でよいではないかとの主張(形式的標準説)もあろう。しかし標準的使用の判断は、近隣地域・類似地域のイメージに、延いては取引事例の選択の範囲に影響を及ぼし、誤った比準価格を導くおそれがある。@Aに留意して標準的使用を把握すべき(実質的標準説)であろう。


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