BRIEFING.474(2018.07.05)

土壌調査の「契機」

土壌汚染対策法は、土地の所有者等または土地の形質変更をしようとする者に対し、いくつかの場合に土壌調査の実施を義務付けている。それは次の場合である。

●特定有害物質を使用する水質汚濁防止法の特定施設を廃止する場合(第3条)
●3,000u以上の土地の形質の変更(中略)において知事が土壌汚染のおそれがあると判断した場合(第4条)
●土壌汚染により人の健康被害のおそれが生じると判断される場合(第5条)

これらは、「土壌調査の契機」、あるいは「区域指定の契機」と呼ばれている。

環境省の調べによると、これまでにその「契機」が法第3条である場合が661件、法第4条である場合が268件、法第5条である場合が3件(平成30年5月31日現在)となっている。

しかしこれ以上に多いのが、法第14条(指定の申請)を「契機」とするものである。同条は、3〜5条適用外の土地の所有者等が自ら「要措置区域」または「形質変更時要届出区域」の指定を求めて知事に申請するしくみを定めたものである。

その申請に際しては「土壌の特定有害物質による汚染の状況の調査(中略)の方法及び結果その他環境省令で定める事項を記載した申請書」を知事に提出しなければならない。この調査(「自主調査」とも呼ばれる)が、法第14条を「契機」とする土壌調査であり、その件数は1,246件(同前)で、法第3〜5条を「契機」とする調査の件数(計932件)を上回る。

では、義務付けられていないのに、費用をかけてこの「自主調査」を行う理由は何だろうか。

その多くは、将来法第3〜5条によって調査義務を課される(調査命令が出される)ことを見越して、予算や時間がある時に・・・というものであろう。この他、開発・売却に備えて、また正確な時価の把握という目的もある。従業員や周辺住民の安全・安心のためにということもあろう。

大阪市は本年4月、市内の市営住宅跡地について、この法第14条を「契機」とする土壌調査を行い、同条第3項の規定に基づいて「形質変更時要届出区域」の指定を受けている。

調査対象地の面積は約16,000uで、これを10m×10mの区画に区切って調査したところ、その18区画で特定有害物質について基準に適合せず、当該区画の計約1,800uが「形質変更時要届出区域」と指定されるに至ったのである。基準を超過した有害物質は、鉛及びその化合物、砒素及びその化合物、ふっ素及びその化合物であった。

さて、市営住宅跡地で特定有害物質が基準値を超過するとはどうしたことだろうか。

そこで古い住宅地図を紐解いてみると、昭和46年8月のものにはすでに当該地にこの市営住宅が画かれているものの、昭和38年6月のものには大規模な工場が画かれている。前々用途は工場であったようだ(但し当該工場での前述の物質の使用履歴は把握できていない)。

現在、この土地は周囲をフェンスで囲われ、地表はアスファルト舗装や土壌飛散防止のためのシートで覆われている。また周辺地域で地下水の飲用利用は確認されていないとのことである。

官民問わず、今後も14条を「契機」とする土壌調査の積極的実施が望まれる。


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