BRIEFING.51(2003.3.20)

不動産鑑定士の2つの立場

先般、不動産担保評価に際しては銀行から独立した不動産鑑定業者に評価を依頼すべきとの考えが、金融庁から大手銀行各行に示されたところである。銀行が融資に当たり自社の関連会社に担保不動産の評価をさせれば、どうしても銀行の意向を汲んだ評価になりがちである(またはそうであるとの疑念を払拭できない)からである。

いわゆる「内部評価」を排除することとなり、客観性確保の意味から妥当と言えよう。

ところで、不動産鑑定士には、次の2つの立場があると考えられる。

@監査人的立場・・・依頼者(報酬支払者)に左右されない独立した立場。
A代理人的立場・・・依頼者(報酬支払者)の経済的利益を保護する立場。

@は冒頭で述べた担保評価のような場合があてはまる。融資を受けようとする者の立場(楽観的評価を望む)に立つべきでないことは言うまでもなく、融資をしようとする者の立場(本来は保守的評価を望むべきだが楽観的評価を望みがち)に立ってもいけない。

Aは賃料増減額請求に関する争いの一方の当事者からの依頼のような場合である。依頼者に有利な事実を見つけだし、その経済的利益を保護・主張してやることに妥当性があろう。もちろん不合理な主張、無理な論陣を容認する趣旨ではない。

価格や賃料に争いがある場合、その両当事者に代わってAの立場の不動産鑑定士どうしが議論・協議すれば、より公平妥当な結論に収束するのではないか。

不動産鑑定評価の基本的態度が@であることは、不動産の鑑定評価に関する法律や、不動産鑑定評価基準から明らかである。一方、Aは実務上散見されるものの、明文上、容認する根拠は薄い。

しかしAが社会的に求められており、かつ、それに応えることが社会的公平の実現の一助となるとすれば、必ずしも否定されるべきものではなく、今後、同法や同基準に明確に位置づけられるべきであろう。


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