BRIEFING.536(2020.08.31)
総費用の減価償却費と必要諸経費の減価償却費(2)
不動産鑑定評価の収益還元法における「総費用」、及び積算法における「必要諸経費等」には共に「減価償却費」が計上される。しかし、これを計上せず、還元利回り又は期待利回りにこれを織り込んでしまう手法もあることを前回述べた。そしてこの2つの考え方を次のように整理した。
@総費用・必要諸経費等に計上すべき(計上主義)
A還元・期待利回りに織り込むべき(織込み主義)
昔は@の計上主義が原則、今はAの織込み主義が主流だ。市場において利回りの“相場”がAの折込み主義で形成されるという現実に合わせたのである。また、収益還元法はA、積算法は@という考え方も根強い。その理由としては次の3つが考えられる。
(1)不動産鑑定評価基準の過去の括弧書きと運用上の留意事項の記述
(収益還元法の)総費用の内訳たる減価償却費の後には「(償却前の純収益を求める場合には、計上しない)」と括弧書きがあるのに対し、(積算法の)必要諸経費等の内訳たる減価償却費の後にはそれがなかった。これにより、前者は@が原則でAもОK、後者は@に限定と理解されたのだろう。その後、同基準の改正で、後者についても「(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない)」と括弧書きが付され、両手法ともに@Aの両方が明確に認められるに至っている。さらに、同基準の「運用上の留意事項」には収益還元法の場合「基本的に減価償却費を控除しない」とAの立場が明記されるに至っている。積算法については同様の記載はなく、同基準の解説の「計上しない場合には償却前純収益に対応する期待利回りを用いる必要がある」という記載から@A対等の立場が窺える。
(2)買主側の収益還元法、貸主側の積算法(会計上の減価償却との混同)
ア.非所有者(買主・借主) の立場 |
イ.所有者(売主・貸主) の立場 |
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価格を求める手法 | 収益還元法 | 原価法 |
賃料を求める手法 | 収益分析法 | 積算法 |
各手法の立場(視点)は上表の通り整理すると、アでは過去の支出は重要でないが、イでは重要(過去の投資を費用化したい)になると思われる。したがって収益還元法ではAを受け入れやすく、積算法では減価償却費をうやむやにしたくないという考えがあったのだろう。その背景に、企業会計原則における減価償却の意義(取得価額の適正な費用配分)との混同がある点を指摘しておきたい。
(3)減価償却費に代えて期待利回りを上げることへの違和感
収益還元法の場合、減価償却費を計上しない分、今後のリスクを還元利回りに上乗せ、というのは感覚に馴染む。だが積算法の場合、減価償却費を計上しない分、期待利回りが高くなることに違和感が生じがちである。しかし減価償却費を、今後の元本価値減少を補う(又は維持する)ための収益の上乗せと解せば、違和感も解消するだろう。
今後は、積算法においてもAが主流になると予想するがいかがだろうか。