BRIEFING.538(2020.09.17)

「大阪都構想」の「北区」「中央区」

大阪市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」が進められている。設置される特別区の名称もすでに「北区」「中央区」「淀川区」「天王寺区」でほぼ固まっている。これについては東京都の「中央区」と「北区」が「同じだと混乱する」と再考を求めていたが、法定協議会はこれに応じないことを表明している。

確かに、札幌、神戸、福岡等にも「北区」「中央区」があるから、なぜ大阪にだけケチをつけるのかとも思えるが、「大阪都構想」による区は単なる行政区分ではなく、独立した自治体たる特別地方公共団体であり、他の「北区」や「中央区」とは性格が異なる。つまり、「長野市」と重ならぬよう「河内長野市」、「狭山市」と重ならぬよう「大阪狭山市」にしたのと同様に考えてよ、ということである。

この点、総務省は、昭和45年の自治事務次官通知を踏まえ「名称の重複による混乱が生じないよう、十分配慮することが必要」「当事者間でよく話し合い、調整すべきもの」との見解を、本年2月に示している。昭和45年の次官通知は次の通り。

「市の設置若しくは町を市とする処分を行う場合において、当該処分により新たに市となる普通地方公共団体の名称については、既存の市の名称と同一となり又は類似することとならないよう十分配慮すること。」

「配慮」が求められているのは市のみで、町村や特別区には求められていないことが分かるが、その趣旨を類推することも必要だろう。

ところで、新「北区」の位置をよく見れば、そのさらに北西側に新「淀川区」が位置する。最北を「淀川区」に譲りつつ「北区」でよいのか。「中央区」にしても、中央と言えなくもないが、中央から市の南端にまで及ぶ範囲だからむしろ「南区」でもよいくらいだ。北端にない「北区」、南端にある「中央区」でよいのか。

また、新「北区」には伝統があると言えなくもないが、新「中央区」は平成元年に「東区」と「南区」の合区で誕生したばかりの区でしかない。尊重するに価するのか。さらに「天王寺区」や「淀川区」といった個性ある名称に比べ、味がないように思うがいかがだろうか。

尤も、個性ある名称は好ましいものの、区域全体を包含する名称はなかなかない。新「天王寺区」には「阿倍野」「平野」も含むが「阿倍野と天王寺は別や」し「平野は天王寺やないで」。また、新「淀川区」に「東淀川」「淀川」「西淀川」をまとめるのに問題はないし、「此花」を含むのはよしとしても「港は淀川と全然ちゃう」。大阪市のホームページには「市民の声」として「北区を天満区」「中央区を浪華区」にという意見が紹介されている。一考に値する名称ではあるが「福島や鶴見は天満やおまへん」。

違和感は拭えない。

さて、東京都の「新宿区」は、昔の四谷、牛込、淀橋の3区から誕生した。新宿は元々甲州街道の宿場町で今の新宿駅付近の地名である。しかし「牛込は新宿じゃねえ」と言う人は居ないだろう。個性のない「中央区」(日本橋、京橋の2区)も「港区」(芝、麻布、赤坂の3区)もそれなりにイメージが着いてきた。旧区名も地名として残って個性を発揮している。また大阪府の布施、河内、枚岡の3市は「東大阪市」となっている。個性のない名称である。だが今では、中小企業の街、機械工業の街、そして石切神社のある街、といったイメージが湧く。

区の名称は「育ててゆくことが肝心なんやろなあ」。


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