BRIEFING.544(2020.11.19)

新宿三井ビル売却で譲渡損?

三井不動産は所有する新宿三井ビルディング(東京都新宿区西新宿2丁目)を、同社が運営に関わる不動産投資法人・日本ビルファンドに売却する。同ビルは1974年(昭和49年)9月に竣工、地下3階、地上55階建の超高層ビル。発表によると譲渡価格は1,700億円(固資税精算額及び消費税別)。大規模なリニューアルが行われているとは言うものの築46年経過しているから、仮に建物の価値を0円、全部土地価格とすれば、その単価は1,177万円/u(敷地面積14,449u)となる。今年の路線価989万円/uを0.8で割り戻した1,236万円/uより約5%安い。四方路のプラスを新型コロナのマイナスと相殺するとしても「土地値」以下は間違いないだろう。

もちろん、築46年だから「更地価格引く建物取壊し費用」といったベタな評価をした訳ではなく、収益性を精査して決定していることは言うまでもない。

取得する側の不動産投資法人が公表している鑑定評価額は1,730億円。収益価格を1,730億円、積算価格を2,060億円とした上で、収益価格を鑑定評価額としたようである。なお、積算価格の内訳は、土地98.5%(2,029億円)、建物1.5%(31億円)である。

さて、46年も前から所有するビル(土地建物)を売却すれば、相当な譲渡益が、と考えるのが普通だが、実は簿価が2,031億円(土地1,867億円、建物153億円、その他12億円)で331億円もの譲渡損が生じたと言う。

話は2002年(平成14年)に遡る。アメリカでITバブル(1999〜2000年)がはじけ、同時多発テロ(2001年9月)がそれに追い打ちをかけ、新興国の経済不安も増し、日本では光通信の株価が1/100に下落、協栄生命、千代田生命、そごう、マイカル等が破綻、大手銀行・生損保も再編されるに至った。

そんな中「法人が所有している事業用土地の再評価に関し必要な事項を定めることにより、金融の円滑に資するとともに、企業経営の健全性の向上に寄与すること」を目的とし、土地の再評価に関する法律が1998年(平成10年)3月末施行されている。この法律は施行から3年を経過する日(2001年3月末)までの時限立法であり、その後4年を経過する日(2002年3月末)までに改正されている。この期間中に上場法人等は、棚卸資産を除く事業用土地の全部を再評価し、その評価益を無税で貸借対照表に計上することができたのである。これにより多くの上場企業等が貸借対照表上の資本を増強することができたのである。

同社はこの法律に基づき、2002年3月末に再評価を行い、新宿三井ビルの敷地の帳簿価格は、下表の通り改められて今日に至っている。

    時 点  百万円   千円/u
 2001(H13)年3月31日     6,253     433 
 2002(H14)年3月31日   186,668   12,919 
 2020(R02)年3月31日   186,668   12,919 

それにしても、今の近隣地価水準が再評価時(2002年)よりも高いことは、公示価格等の推移から見て明らかである。それなのに土地の譲渡で譲渡損が生じるのはなぜだろうか。

このことは、土地の最有効使用を前提とする更地価格の上昇を横目に、建物の老朽化・陳腐化によって、敷地もその有用性を十分に発揮することができなくなっているから、と説明することができる。但しそんなビルでも適正な価格(たとえば本件の如く「土地値」以下)で取得すれば悪い話ではないのである。


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