BRIEFING.551(2021.02.03)

不動産鑑定における取得・売却時諸経費の扱い

不動産鑑定評価の価格を求める手法には、@原価法、A収益還元法、B取引事例比較法等がある。

@は対象不動産の再調達原価に減価修正を行って積算価格を求める手法であるが、再調達原価には、土地を取得する際の仲介手数料、登録免許税、不動産取得税等の諸費用を含まないのが原則である。建物を新築した際の登録免許税、不動産取得税等も同様である。「再調達」のためには必要な費用なのに含めない。このことは、積算価格が(ア)これから取得する人にとっての価格ではなく、(イ)すでに取得した人にとっての価格だから、と考えれば頷ける。

諸費用が考慮されないのはAにおいても同様で、DCF法の初年度にこれらが計上されることはないし、直接還元法においてもこれらが勘案されているとは考えられない。これも@同様、(ア)ではなく(イ)だからと考えれば納得がゆく。@の場合は「再調達」という言葉から、(ア)を念頭に置きがちだが、Aの場合は当然に(イ)と考えるのが自然だろう。

Bでも同様に、諸経費を考慮することはない。もし考慮すれば、買主にとっては売買価格に諸経費を加算した価格が実質的な取引価格と認識され、売主にとってはそれ(登録免許税、不動産取得税は不要)を控除した価格が実質的な取引価格と認識されるだろう。

なお、諸経費を考慮した場合、@では価格に対してプラスに、Aではマイナスに作用する。Bでは前述の通り、買主にとってはプラス、売主にとってはマイナスに作用することになり、どちらの立場の価格情報かで、同一取引なのに取引価格の認識が相違するという困ったことになってしまう。

なお、税務上、支払った登録免許税と不動産取得税は支払時の費用として処理されるのに、仲介手数料は不動産の取得価格に含まれる(建物分については減価償却によって費用化)ものとされ、この点で不動産鑑定の考え方と相違することも指摘しておきたい。これにより、新築マンションを、売主の販売費(モデルルーム開設費、パンフ作成費等含む)を包含した価格で買う場合と、中古マンションを仲介手数料別途で買う場合との不均衡をなくすことができる。

なお「固定資産の減損に係る会計基準の運用指針」によって求める「正味売却価額」は「時価」(正常価格)から「処分費用見込額」(主に仲介手数料)を控除して求められることにも触れておきたい。

さて、上記の手法の他、これら3手法の考え方を活用した手法、C開発法がある。詳しい説明は省くが、マンション分譲事業、または一戸建住宅分譲事業を想定して更地価格を求める手法である。また、AのDCF法の一種として、開発賃貸型DCF法もある。これは開発法の一種と考えることもでき、賃貸マンション・事務所(一定期間運営後売却)事業を想定して更地価格を求める手法である。これらの場合、(イ)と考えて土地については考慮しないとしても、建物の諸経費(登録免許税、不動産取得税)についてはどうだろうか。

この点、土地の価格を求めるに際し、これから新築(想定)する建物についてまで(イ)と考えるのはおかしいから、建物については諸経費を考慮しなければなるまい。なお「開発型証券化における鑑定評価に係る留意事項」(平成20年3月(社)日本不動産鑑定協会証券化鑑定評価委員会)にも建物についてのみ「不動産取得税、登録免許税を考慮する」との記載がある。

そして、土地建物の分譲・売却(想定)をする際の、建物部分に係る諸経費(仲介手数料、販売費)についても、新築(想定)する際と同様、考慮すべきだろう。土地建物まとめての仲介手数料または販売費から、建物分のみを取り出すというのは厄介だが、開発法や開発賃貸型DCF法が、あくまでも更地の鑑定評価手法であることに思い至れば首肯すべきである。


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