BRIEFING.552(2021.03.31)

今年の地価公示は「新型コロナ公示」

地価公示法に基づき、令和3年1月1日現在の標準地の正常価格が官報公示された。

それによると、全国・全用途平均は平成27年以来6年ぶりに下落に転じた。用途別に見ると、住宅地は5年ぶり、商業地は7年ぶりの下落である。そして工業地が5年連続の上昇である点は見逃せない。ただその上昇率は縮小している。三大都市圏のみの全用途平均は8年ぶりの下落、用途別では住宅地・商業地ともに8年ぶりの下落、工業地は7年連続の上昇(但し上昇率は縮小)となっている。

その背景に、新型コロナウイルス感染症の蔓延があることは言うまでもない。

最初の緊急事態宣言は、令和2(2020)年4月7日、東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県に発出され、4月16日には対象が全国に拡大されている。

その後、5月14日には、当初の7都府県に北海道・京都を加え福岡を除いた計8都府県以外の39県において解除されている。さらに5月21日には大阪・京都・兵庫でも解除、5月25日には残る5都道県でも解除されるに至っている。

その後は、GoToトラベル、GoToイートの実施と停止を経て、医療提供体制の不安をかかえて1月1日(価格時点)を迎えている。2度目の緊急事態宣言は1月7日に迫っていた。

この間「新しい生活様式」「Withコロナ」の元、インバウンド需要が消滅する一方、テレワーク、在宅勤務、Web会議、時短営業、ゴーストレストラン、巣ごもり消費、宅配等が活発化してきた。今年の地価公示にはその反映が見て取れる。

まずは、全国の変動率下位(下落率上位)から見てみよう。

1位は大阪市中央区道頓堀1丁目(-28.0%)、次に宗右衛門町、難波1丁目、日本橋1丁目、心斎橋筋2丁目、千日前2丁目と続く。いずれもいわゆる「ミナミ」の商業地である。一昨年までは街行く人の大部分が外国人観光客で、そのほぼ全てが消えたのだからその影響は著しい。これらの地域の一部では相続税路線価の修正(地価変動補正率表による補正)も決定している。

次に、全国の変動率上位を見てみる。

1位は沖縄県豊見城市の工業地(+29.1%)だ。観光客激減の一方で、配送業が業績を伸ばし、西海岸道路の開通、人口増加の影響もあった。2位は北海道倶知安町の住宅地だ。今でも外国人富裕層が別荘を買うと言う。3位は沖縄県糸満市の工業地。豊見城市と事情は同じだ。4位は倶知安町の商業地。外国人向け店舗・ホテル用地の取引きが堅調のようだ。5〜7位は北海道北広島市の住宅地となっている。

2位と4位の倶知安町にも新型コロナの影響がないはずはないが、外国資本による開発の勢いが続いているようだ。世界的金融緩和に支えられたコロナ後を見据えての判断があるのだろう。

今年の公示価格は新型コロナに触れることなく語れない。市場参加者はそれを前提に判断・行動し、そして地価が形成された。今年の地価公示は「新型コロナ公示」で異論あるまい。


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