BREFING.562(2021.09.21)

共用部分の価値と価格

一棟の賃貸ビル、マンション等には、専用部分、有効部分、賃貸部分などと呼ばれる、建物賃貸借の対象となる部分(以下、単に専用部分と言う)と、それ以外の共用部分に分けられる。共用部分は、具体的には、階段や廊下、建物全体の維持管理に必要な防災センター、機械室、備蓄倉庫等であるが、使い勝手によっては、これらが専用部分に含まれる場合もある。

簡単に言うと、単独の使用者が使う場所か、他の者と共同で使う場所か、の違いである。

ここでは一般的な賃貸事務所ビルを想定し、その共用部分である(1)1階ロビーの価値、(2)階段室の価値をどう判断するかを考えてみる。

(1)1階ロビーの価値
ロビーは、それのみでは賃貸しづらいから賃料を生まず、価値はないとも考えられる。しかし、簡単な厨房があれば開放型の喫茶店、あるいは物販店、ロッカーを設置してトランクルームとして賃貸することもできよう。そうすると、そのビルの収益価格は、従来の賃貸部分の収益に加えてロビーの賃貸収益も考慮して試算すべきなのであろうか。

確かに、十分に広いロビーなら、一部を喫茶店にすべきと言える場合もあろう。テナントの利便にも資する。だが、多くの場合、それにより、ビル全体の価値が下がる、具体的には賃料水準が落ちる可能性がある。特にロッカーを設置して・・・などというのは価値を下げる例だ。喫茶店でも慎重に判断すべきである。広くて勿体ないなあと思われがちな大規模ビルのロビーも、それはそれで最有効使用であり、それ自体は収益を生まずとも、ビル全体の価値を引き上げている場合が多い。喫茶店の賃料分、増収となったとしても、事務所部分の賃料単価が僅かに下落すれば、差し引きでマイナスとなることもあろう。喫茶店の賃料は具体的に想定しやすい一方、事務所の単価下落は想像しにくいので、判断を誤りやすいポイントである。

つまり、ロビーは事務所部分の価値向上に寄与しているのである。そしてそれ自体の価値は事務所部分に吸収され、価格はゼロと言わねばなるまい。

(2)階段室の価値
次に階段室はどうか。物置や休憩所に賃貸すれば・・と考えられなくもないが、勿論消防法に反するし、避難の妨げになり、そのような使い方をしていればビル全体の価値を大きく損なうことになる。事務所を借りようとする場合、あるいは評価をしようとする場合等には、見逃してはならないところである。

すると階段室もロビーと同じく、事務所部分の価値向上に寄与しており、それ自体の価値は事務所部分に吸収され、価格はゼロと言うべきだろう。

また、(1)(2)とも、区分所有法上の専有部分として区分登記することは通常不可能で、売買の対象とすることはできないから、その点でも価格はゼロと言うべきである。

ところで1階の賃借人は、階段を使用しないから、階段室などなくてもよいと考えるかも知れない。エレベーターも要らないし、路面店なら廊下や玄関ロビーも要らない。2階の賃借人にとってはどうか。階段もエレベーターも2階まであれば十分、それより上は必要ないかも知れない。

そうすると、これらの共用部分の価値は、専用部分に(面積当たり)等しく吸収されるのではなく、専用部分の位置や階層によって程度が相違すると考えることもできる。


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