BREFING.564(2021.10.18)

私道の価格と二重評価

建物の敷地は原則として道路に面していなければならない。そしてこの場合の道路は、必ずしも公道、すなわち国道、都道府県道、市町村道等でなくてもよく、一定の要件を満たすものなら私道であっても構わない。実際、私道に面する敷地に建てられている建物も多い。

このような私道の代表的なものとして「位置指定道路」(建築基準法42条1項5号)がある。公道から分岐し、行き止まりとなっており、それに面する宅地の所有者の共有となっていることが多い。例えば8つの宅地がその道路に面しているとすれば、その道路はその8者の共有(1/8ずつ)となっている。

では、このような私道の価格はどう評価すべきだろうか。

一般に不動産流通市場では、その共有持分がそれに接する各宅地の所有権に随伴することが予定されており、共有持分のみが単独で取引されることがないから、価値は0と評価されている。私道の価値は、それを必要とするそれぞれの宅地に全て吸収されてしまっているのである。

不動産の表示に関する公正競争規約(第8条)では、売地に私道がある場合、「土地面積」にそれを加えてはならず、「土地面積」と「私道負担」を別々に記載することとされている。例えば「土地面積120.50u、別途私道負担10.20u」といった具合である。その価格は、私道負担があることを前提とした価格ではあるが、単価を求める場合には、それを含まない「土地面積」で除するのが普通である。即ち私道そのものに価値はなく、価値を全て吸収された残りカスと考えられる。

ところで、このような私道の固定資産税・都市計画税はどうなっているだろうか。

大阪市の場合、私道の評価額を@「公共の用に供する道路」は非課税、A「公共用道路に準ずる道路」は0評価、B「その他の道路」は付近の土地の価格の10分の1、と定めている。それぞれの認定基準は煩雑なのでここでは触れないが、@Aの差はザックリ言うと、通り抜けられる(@)か行き止まり(A)かの相違と考えてよいだろう。

一方、相続税法上の評価(財産評価基本通達による評価)はどうなっているだろうか。通達によると、「私道の用に供されている宅地」は100分の30、それが「不特定多数の者の通行の用に供されているとき」は評価しない、こととされている。国税庁は「タックスアンサー」で、前者は「例えば、通抜け道路のように」と説明し、後者を「例えば、袋小路のような」と説明している。

土地区画整理事業の施行に当たっても、このような私道の評価が必要となってくる。ある土地区画整理事業における「換地設計方針」を見てみると次の通りだ。「非認定道路で非課税のものは20%、非認定道路で課税のものは30%とする。ただし、一般の用に供しない非認定道路については、それぞれ5%を加算する。」ここで「非認定道路」は私道と考えてよいだろう。「課税・非課税」は固定資産税の話である。

大まかな感触として、固定資産評価は毎年の税額に直結するので納税者に寄り添って安目に、換地設計方針による評価は従前宅地所有者が納得しやすいように高めに、という感じがする。

私道は不動産流通市場でカス扱い(全部吸収説)されつつ、公的には上記の如く価値の残存が認められる場合(一部残存説)がある。ただこの場合、それぞれの宅地を「全部吸収説」で評価しつつ、私道について「一部残存説」で評価していては、二重評価になってしまう。慎重な議論と検討が必要な論点である。


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