BRIEFING.572(2022.04.20)

利回りの分母と分子

駅前・新築の一棟賃貸マンション(@)と、バス便の古い一棟賃貸マンション(A)。不動産に疎い人は両者を比較して「@の方がAよりきっと利回りもいいんだろうな」と思いがちだがこれは間違いである。確かに、@の方がAより賃料が高いし稼働率もよく収益は大きいだろう。しかしその分、@の方がAより市場での評価が高くなる。つまり、収益も価格も@の方がAより高いから、それらを分子・分母とする利回りについて、どちらがどうとは言えない。問題はその大きさの程度である。

@は老朽化・陳腐化の心配は当分なく賃料水準を長く維持し続けるだろうし、人口の減少が進んでも駅前なら賃貸住宅需要は簡単には減らないと考えられる。むしろ収益は向上するかも知れない。この将来性(低リスク)は、収益よりも価格に色濃く反映され、価格は高目になるに違いない。

Aは老朽化・陳腐化への対応をしなければ賃料水準が維持できないだろうし、人口の減少が進めばバス便の地域の住宅需要は減少すると考えられる。このよくない将来性(高リスク)も、収益よりも価格に色濃く反映され、価格は低目になると予測できる。

その結果、@の収益/価格(=利回り)は、Aの収益/価格(=利回り)を下回ることとなる。

冒頭の台詞は「きっと利回りが低いんだろうな」というべきだろう。したがって「利回り8%超物件特集」といった収益物件の広告には要注意だ。高リスク物件と思って間違いない。

上記に関しもう一つ指摘しておかねばならない点がある。利回りを求める上での分母がはっきりしていないことである。分子は現実の収益の推定であろうが、分母はどうだろうか。仮に売るとした場合の価格か、所有者にとっての簿価か、あるいは相続税評価額か・・・。冒頭の台詞は、簿価や相続税評価額のような、実際の収益性を反映しない価格を、何となく念頭に置いているように思われる。

利回りを語る上で重要なことは、その基礎となる分母と分子をはっきりさせることである。

利回りは、その物件の過去の取得価格を分母として語られることも多い。例えば、リーマンショック後に収益物件を40億円で取得し、その後、アベノミクス、インバウンド需要を経て収益が向上し、利回りが以下の通り上昇した(分母は40億円で固定)とする。

●リーマンショック後:収益2億円/価格40億円=利回り5.00%
●インバウンド需要後:収益3億円/価格は同上 =利回り7.50%

これを売却したら60億円で売れたとする。この時の買主にとっての利回りは、分子は変わらないのに分母が上がり、次の通りとなる。そしてその後すぐ、新型コロナウイルスの蔓延によって収益が悪化すると、分母固定のまま分子が減少し、利回りは以下の通りさらに下落する。

●インバウンド需要後:収益は同上/価格60億円=利回り5.00%
●新型コロナの蔓延後:収益2億円/価格は同上 =利回り3.33%

資金繰りに窮した所有者がこれを40億円で売ると、その買主にとっての利回りは次の通り。分子は変わらないのに分母が下がって利回りは回復したことになる。

●新型コロナの蔓延後:収益は同上/価格40億円=利回り5.00%

利回りを見る場合「どの物件の」に加え「誰にとっての」という視点を忘れてはならない。


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