BRIEFING.573(2022.05.13)

直接還元法の「趨勢」とDCF法の「波」

不動産の価格を求める鑑定評価の手法の1つ、収益還元法には次の2つがある。

@直接還元法
一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法
ADCF法
連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法

上記@では、単年度の総収益から総費用を控除して純収益を求め、それを還元利回りで還元して収益価格を求めることになる。その際今後の純収益の「趨勢」を価格に反映させる方法として次の3つが考えられる。

(1)純収益を直近のものではなく、修正して純収益に織り込む
(2)純収益は直近のものとし、還元利回りに織り込む
(3)純収益にも織り込み還元利回りにも織り込む

一般的には(3)の方法が採用されていると思われるが、予測される「趨勢」のうち、一般的要因や地域要因によるものである部分については(2)、個別的要因によるものである部分については(1)の方法によることが多いのではないだろうか。

一方、上記Aの場合、この先数年間についての「趨勢」がかなり具体的に予測できる場合は、それをその年その年の純収益、即ち毎年の収益・費用に織り込むことになる。

したがってその年その年の純収益がある程度把握できるならAが有効であるが、ザックリした「趨勢」しか分からないなら@によるべきである。また、形だけDCF法とし、毎年同額の収益・費用を見込むだけなら@でよいだろう。当てずっぽうのDCFや形だけのDCFなら@でよい。

Aの真骨頂は、この先数年間の収益・費用の予測が可能で、しかもその波が大きい場合に発揮される。金利水準(割引率)がもっと高ければなおさらだ。

例えばAは、その不動産に必要な大規模修繕が来年必要な場合と、5年後でよい場合とを、区別し、それを明確にその価格に反映させてくれる。来年だけ大きな収益(核テナントの更新料等)が見込めるが、3年後からは(ライバル店の開店等で)収益の減少が見込まれるといった波も反映させてくれるのである。

この予測可能な数年間の具体的な「波」を@で今期以降の「趨勢」に織り込もうというのはなかなか難しい。したがってこのような場合には、@よりAがよいのである。

新型コロナの影響で、近年、飲食テナント等の賃料が、期間限定で大幅に引き下げられる例が多く見受けられた。3ヶ月間50%減額とか、6ヶ月間30%減額といった具合である。この場合、@の純収益にも還元利回りにも「趨勢」を織り込みにくい。Aならしっかり反映できるのである。

しかしこの「波」はなかなか予測通りにいかない。事実上記のような特約は、新型コロナが収束しないため、延長された例が多い。この場合、Aの欠点が露呈する。@では「趨勢」でうやむやになり「波」の予測のハズレが明確にならないという利点(欠点?)がある。


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