BRIEFING.574(2022.05.20)

定期借家契約の「早期再契約」で有利な再契約を

普通借家に加え、定期借家(定期建物賃貸借)制度が創設(2000年3月)されて22年になる。建替え検討中の建物の有効活用や、悪質賃借人の排除、合理的賃貸市場の形成等に寄与してきたものと思われる。

さて、定期借家契約においては、賃貸人からは勿論、賃借人からも期間中の中途解約は不可である(200u未満の居住用を除く)。これにより、賃貸人は期間満了まで安定した収益を見込むことができる。しかし一方の賃借人側からすると、引っ越しのタイミングが限定され不利となる。

賃借人は、再契約を望む場合でも、引っ越す可能性をちらつかせながらポーカーフェイスで再契約の交渉に臨みたいところである。その場合、交渉決裂に備え(はったりでなく)実際に引っ越せる先を確保しておきたい。また仮に最初から引っ越すつもりでも、希望の引っ越し先が、期満満了のタイミングで確保できるかどうかは分からない。良い引っ越し先が見つかれば、他に取られないよう早く契約してそちらへ移りたい。引っ越し先が無償で入居を待ってくれればよいが、空家賃を払って確保しなければならないかもしれない。限定されたタイミングでは何かと不利だ。

そこで提案したいのが「早期再契約」である。賃借人からの中途解約を可能とする(予告期間はあるとしても)特約がある場合に限られるが、契約期間中の適当なタイミングで、賃貸人に中途解約を示唆しつつ再契約の交渉をするのである。事務所需要の乏しいタイミングで解約を持ち出せば、低賃料でかつ長期間の再契約を賃貸人から引き出せるかもしれない。近隣に新築ビルが竣工した際などに有効な手である。「新築ビルへ引っ越しを考えているのですが、今の契約を中途解除した上で、新たに値下げして10年間の再契約をしてくれれば残ってもよいのですが・・・」と交渉するのである。

期間満了まで漫然と借りておれば、たまたまその時、事務所需要が逼迫していたり、具体的な引っ越し先がなければ、強気の交渉ができず、再契約の条件は賃借人に不利なものになるであろう。

ここで参考になるのが衆議院の解散である。69条解散(内閣不信任案可決)ではなく、7条解散(内閣の助言と承認による天皇の国事行為)である。本来の趣旨とはやや異なるが、実態は総理大臣の都合による解散と言ってもよい。景気がよい時、選挙で勝てそうな時に行う解散である。任期満了まで待つよりは今だ、という時の切り札(このような解散権の行使には批判もあるが)である。

定期借家契約でも、賃借人が勝てそうなタイミング、有利な時期に、中途解約(解散)の切り札を切ればよい。勝てそうか否かは別にしても、後がなくなる前に契約をリセットしておくことは大事だろう。例えば5年間の契約期間の残存期間があと2年程度に迫った時、期間満了まで待つことなく、契約をリセットするのである。後がなくなってからでは足下を見られる。常に十分な残存期間を確保しておけば安心である。また、常に引っ越し先を探しておくことも大事である。

期間満了通知(1年〜6ヶ月前)を受け取ってから再契約の協議に臨みつつ、慌てて引っ越し先を探すことになるのでは大変に不利である。期間満了という崖っ縁に追い込まれる前に手を打ち、こちら(賃借人)の選択肢を広げておくことが大事である。

そのためには、賃借人からの中途解約可能、できれば予告期間1ヶ月、といった契約としておくことが望ましい。一般に新規契約の際、重視される契約内容は、賃料と敷金であろう。しかし「早期再契約」という手が使える「中途解約可能」の契約としておくことも大事だ。「いやなら出て行ってもらいますよ・・・」と脅される前に「いやなら引っ越しますよ・・・」と言えなければならない。


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