BRIEFING.576(2022.06.03)

高圧線の最下垂時は地上何m?

電線路とは「発電所、変電所、開閉所及びこれらに類する場所並びに電気使用場所相互間の電線(電車線を除く。)並びにこれを支持し、又は保蔵する工作物」(電気設備に関する技術基準を定める省令1条8号)である。林地、農地、そして宅地の上にも張り巡らされている。その電圧は、低圧、高圧、特別高圧(7千ボルト超)に分けられ、特別高圧の電線路を引くには鉄塔等が必要となる。

特別高圧の電線路の多くは、他人の土地に設定された地役権に基づき、その上空を利用して設置される。そしてその土地においては、電線路が最も垂れ下がった時の電線の高さから一定の隔離距離を控除した高さを超える建物等の築造が禁止される。ある土地に設定されている地役権の「目的」は次のように登記されている。

「1、電線路(電線の支持物を除く)を設置(張替、増強等を含む)その保守運営のために立入通行、使用の認容」「2、電線路の最下垂時における電線の高さから3.75mを控除した高さを超える建造物、工作物の築造の禁止」以下省略。1は分かるが2が「目的」として登記されているのには違和感がある。

その平面的範囲は「範囲」として登記されており具体的には、法務局に備え付けられる「地役権図面」で示されている。多くは1筆土地の(全部ではなく)一部である。

では「最下垂時における電線の高さ」とは地上から何mなのであろうか。登記事項にはそれについて何も記されていない。なぜ「地上何mを超える・・・の禁止」と定めないのか。猛暑で伸びた電線路がどこまで垂れ下がるのか分からないから実に曖昧である。実務上は、このような地役権の設定がある土地に建物を建てる場合、建築主は地役権者と建物の高さについて協議することになる。

一方、地下鉄等が他人の土地の下を通る場合には、次のような地上権が設定される。上下の範囲を定めて設定された地上権(区分地上権)であり、その平面的範囲はその1筆全体に及び、その立体的範囲は「範囲」として次のように登記される。

「東京湾平均海面の下2m40センチから38m45センチの間」。

東京湾平均海面、いわゆるT.P.(Tokyo pail)も曖昧のように思えるが、その高さ(水準)は、国会前庭北地区にある「日本水準原点」との関係で明確にされており、全国にある「水準点」を介して日本全国(離島を除く)で正確に導き出すことができる。

この様に、上下の範囲について、地役権では「範囲」でなく「目的」として登記(しかも曖昧)され、区分地上権では「範囲」として登記(しかも明確)されている。この相違は何だろうか。

民法265条では「地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。」とし、さらに269条の2で「地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。」としている。また、280条には「地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。」とある。簡単に言うと次のようになるだろうか。

●区分地上権:工作物等所有目的で人の土地を上下の範囲を定めて使用する権利
●地 役 権:定めた目的に従って人の土地を自己の土地の便益に供する権利

地役権の立体的「範囲」は、定めた「目的」の「邪魔にならない範囲」と理解すべきだろう。


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