BRIEFING.577(2022.06.16)

DCF法と開発法、その計算手順の相違と割り引く率の相違

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法、及び収益還元法に大別される。そしてこの内の収益還元法には直接還元法とDCF法とがある。また、基本的三手法の考え方を活用した開発法もある。

DCF法は、連続した複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する手法である。この場合、現在価値に割り引く率は還元利回りではなく「割引率」と呼ばれる。

開発法は、対象不動産が更地の場合に、その面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等において、それを一体利用(分譲マンション開発等)または分割利用(一戸建住宅開発等)することを想定し、販売総額から通常の建物建築費又は造成費相当額、及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除する手法である。なお、販売総額、建築費又は造成費、付帯費用は、集計前に発生時期に応じて現在価値に割り引かれる。この場合の率は「投下資本収益率」と呼ばれる。

両手法の計算手順には次の相違点がある。

●DCF法:毎期の「純収益」と「復帰価格」の現在価値を合計。
●開 発 法:「収入(販売額)」「支出(建築費又は造成費、付帯費用)」毎の現在価値を合計。

相違の本質は、毎期のプラスとマイナスの差額を算出してからその現在価値を求めるか、プラスとマイナスの項目毎の現在価値をそれぞれ別々に求めるか、という点である。それらを合計すれば、どちらの手法でも答えは同じとなる。この相違は形式的なものに過ぎない。両手法は実質的には同じなのである。実務上、両手法の中間型とも言える開発賃貸型DCF法も取り入れられている。

もう一つの相違点は次の点である。この点こそ、両手法の本質に関わる問題点であろう。

●DCF法:「割引率」で割り引く
●開 発 法:「投下資本収益率」で割り引く

両「率」は、ともに時間の差による選好度から生ずる現在財と将来財との評価の差を埋めるものであるのみならず、それに加えて、投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等を加味したものである。さらに後者は、竣工までの期間が長いため(この点は開発賃貸型DCF法も同じ)、土壌汚染、完工の遅延等のリスクも加味したものと考えることができる。

なお、開発法(及び開発賃貸型DCF法)の場合、期間の初期において、キャッシュフローがマイナスになり、これをプラスの場合と同様に割り引いてよいかという論点がある。確かに、マイナスのキャッシュフローを割り引くことには違和感もあるが、たまたまマイナスになった期だけ割り引かず、集計の結果プラスだったなら割り引くというのにも疑問がある。

将来のプラスが現在のプラスより小さく評価されるなら、将来のマイナスも現在のマイナスより小さく評価されてよいと考えることもできる。

この点、開発法の基本式(不動産鑑定評価基準・運用上の留意事項[の1の(1))ではマイナスの場合とプラスの場合を全く区別しておらず、DCF法(初年度に大規模改修の予定があればマイナスになることもある)の「DCF法シート」(同基準・各論第3章別表2)においてもこれについての配慮は見られない。


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