BRIEFING.578(2022.06.30)

「重要無線通信」の「伝搬障害防止区域」

都市の上空には、多くの特定の固定地点間に「重要無線通信」の電波が飛び交っている。次の6つの無線設備による無線通信がこれに該当する(電波法102条の2)。総務大臣は、必要があるとき、必要な範囲内において、当該電波伝搬路の地上投影面に沿い、その中心線の両側それぞれ100m以内の区域を「伝搬障害防止区域」として指定することができる。

一 電気通信業務の用に供する無線局の無線設備
二 放送の業務の用に供する無線局の無線設備
三 人命若しくは財産の保護又は治安の維持の用に供する無線設備
四 気象業務の用に供する無線設備
五 電気事業に係る電気の供給の業務の用に供する無線設備
六 鉄道事業に係る列車の運行の業務の用に供する無線設備

これらの内、三番目の「人命若しくは・・・」は具体性に乏しいが、総務大臣が定める「電波法関係審査基準(40条)」によると、目的が公共業務用で、かつ通信事項が防災対策に関する事項、警察事務に関する事項、治安維持対策に関する事項、消防事務に関する事項、水防事務に関する事項、(中略)航空保安事務に関する事項、海上保安事務に関する事項、防衛に関する事項又は防災行政事務に関する事項、である無線通信がこれに該当する。

これらの通信の電波伝搬路が高層建築物等によって遮られると、大変なことになるため、総務大臣はその伝搬路を「伝搬障害防止区域」として指定し、その着工に一定の制限を加えている。それにより、同区域内で高さ31m超の建築物その他の工作物の新築等を行おうとする建築主は、その旨を総務大臣に届け出なければならない。

この「伝搬障害防止区域」は図面によって総務省及び関係地方公共団体の事務所に備え付けられ一般の縦覧に供されている。その他、2007年4月からはインターネット上でも公開されている。但し、その縦覧システムの利用方法は少々面倒である。

利用方法には、一時利用方式とID/パスワード方式があり、一時利用方式の場合、利用者の各種情報を入力した上、携帯電話メールアドレスを登録して、ログイン時に必要となるワンタイムパスワードを受け取り、それを一定時間内にパソコンに入力する必要がある。

勝手に人の土地の利用を制限しておきながら、その情報入手に手間暇掛けさせるとは理不尽とも思えるが、縦覧システムのQ&Aは「国内だけではなく全世界からの縦覧が可能であることから、公共の安全により一層配慮する必要がある」と説明している。携帯電話メールアドレスを利用することにより「携帯電話を持っている方=携帯電話事業者によって本人確認が行われた方」とみなしているのである。有事の際、冒頭の6つの設備が襲われては大変だ。特に三番目の設備が狙われることを許してはならない。

さて、前述の届出の結果、その建築物等が障害とならない旨の通知を受けた場合と協議が整った場合を除き、2年間は障害原因となる部分の工事が禁じられる。その間、関係者間で協議が行われ、必要に応じ総務大臣のあっせんも行われる(但し合意するかどうかは当事者の任意)。

「許可」「認可」ではなく、「届出」「協議」「あっせん」では手ぬるいとも思えるが、土地所有者の財産権行使と、重要無線通信の公共性との「調和」を図った結果のしくみと理解できる。協議が整わぬまま2年間が経過したらどうなるのか、そのようなケースがあったのか否かは分からない。両者間の円満な解決が期待されている。


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