BRIEFING.580(2022.08.05)
価格の時点修正率と賃料の時点修正率
不動産鑑定評価によって価格を求める手法の1つ「取引事例比較法」と、新規賃料を求める手法の1つ「賃貸事例比較法」においては、収集した事例について必要に応じ時点修正を行う必要がある。
不動産鑑定評価基準は、取引事例比較法の時点修正について「取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない」とした上で、「時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきである」と補足説明を加えている。
賃貸事例比較法における時点修正については「取引事例比較法の場合に準ずる」と素っ気ない。
実務上、直近の変動率の把握は難しく、時点修正率の査定は、かなり主観的とならざるを得ない。過去の推移に、市場参加者(仲介業者等)の肌感覚のようなものを加味して査定される。なお業界の中には、時点修正不要論(分からんものは判断するな!)もあるが少数説である。
さて、この時点修正率は、価格と賃料とで傾向に相違があるだろうか。事務所ビルの価格と新規賃料を想定して考えてみる。
まず、賃貸借市場において貸主・借主は次のように考えると思われる。
貸主・・・歓迎。但し賃料水準の反転下落・減額改定も覚悟。
借主・・・容認。但し賃料水準の反転下落・減額改定に期待。
貸主・・・容認。但し賃料水準の反転上昇・増額改定に期待。
借主・・・歓迎。但し賃料水準の反転上昇・増額改定も覚悟。
売買市場において売主・買主は次のように考えると思われる。
買主・・・慎重。価格水準の反転下落に期待ししばらく待つ。
売主・・・歓迎。価格水準の反転下落を憂慮し早く売りたい。
買主・・・歓迎。価格水準の反転上昇を憂慮し早く買いたい。
売主・・・慎重。価格水準の反転上昇に期待ししばらく待つ。
賃貸借市場には「改定」という調整機能が働くため、それへの期待と覚悟が、今の賃料水準を容認する方向に働くと考えられる。一方、売買市場にはそれがなく、慎重な態度が価格水準を早期に調整するものと考えられる。その結果、価格の時点修正率は、賃料の時点修正率に比べ、穏やかと考えることができる。
コロナ禍の下、事務所需要が減退し、賃料は低下圧力に晒されてきたが、その価格はというとあまり下がってこなかった。これは上記仮説の実証なのだろうか。
だが、価格水準の上昇時に買主側が「これ以上上がらぬうちに買いたい」と考え、価格水準の下落時に売主側が「これ以上下がらぬうちに売りたい」と考えると結論は逆になる。バブルとその崩壊を思いおこさずにはおれない。