BRIEFING.582(2022.09.01)

高圧線下の地役権と竹木の伐採

先月、横浜市泉区岡津町の山林で、高圧送電線に樹木が近接し、爆発音と共に火花が生ずるトラブルがあった。大きな事故に至らなかったのは幸いである。但し、同時刻に神奈川県の広い範囲で「瞬時電圧低下」があったことが分かっている。

電力会社(または送配電会社)は、特別高圧(7,000V超)の送電線及び、それを支持する鉄塔を所有し維持管理している。そして多くの場合、その鉄塔用地を自社で所有しているが、送電線が上空を通るだけの土地については所有せず、地役権(または区分地上権)を設定して権利を確保している。

かつては電力会社が国策で送電線の建設を急いだため、送電線のための地役権設定契約が未了であったり、契約はしたものの登記がされないままといった場合も多々見られる。その権利の設定対価として、多くは一時金(一括払い)、まれに定期金(年払い等)として支払われているが、全く対価がないままという場合もあるとのこと。一時金であった場合には、支払われたのか支払われなかったのかうやむやになっている場合もあるらしい。

このような地役権の代表的な登記の「目的」は次のようなものである。

1.電線路の設置及びその保守運営のための土地立入等の認容
2.電線路の最下垂時における電線の高さから○mを控除した高さを超える建造物等の築造並びに立竹木の育成禁止
3.爆発性、可燃性を有する危険物の製造、取扱い及び貯蔵の禁止

地役権の設定された土地(承役地)の所有者には以上の義務が課せられるのである。このうち面倒なのは、○mを超える立竹木の育成禁止である。特に山林においては、所有者からも電力会社からも目が届きにくい上、月日の経過で樹木が勝手にかつ着実に生長するからである。

今回トラブルのあったと思われる山林の、高圧送電線下に設定されている地役権の「目的」は「送電線路の設置及びその保全のための土地立入、建造物の築造禁止及び送電線路の支障となる竹木の植栽禁止」(昭和38年11月設定)とかなり簡素だ。

そして、前述の代表的な「目的」も、この簡素な「目的」も、立竹木が電線路の邪魔にならないよう管理する義務は土地(承役地)所有者側にあるように読める。実際の運用はどうだろうか。

現実には、地役権者側がその伐採を行うのが普通である。送電線の持つ高度な公共性や、立竹木の伸び過ぎに因る事故の重大性に鑑みると、それが妥当だろう。杜撰な手続きで地役権設定を進めた地役権者側の負い目を反映しているのかも知れない。実際、何十年も前から、何の手続きもされずに高圧送電線が上空を通過しており、最近になって地役権設定や対価の支払い、登記等がなされた例もあるという。これまで手が回らなかったから、ということらしい。

また伐採の際には、立竹木の所有者に「伐採補償料」が支払われる。土地所有者にしてみれば、地役権設定対価を得た上で、伐採を地役権者側に任せ、「伐採補償料」まで得ることになる。

電気事業法第61条には、地役権者側が伐採を行うことを前提に、1項伐採と3項伐採を定めている。1項は「あらかじめ、植物の所有者に通知し」「経済産業大臣の許可を受けて、その植物を伐採し、又は移植」するものであり、3項は緊急性の高い場合で「経済産業大臣の許可を受けないで、その植物を伐採し、又は移植」(事後に遅滞なく大臣に届出、植物の所有者に通知)するものである。登記された地役権の「目的」とは合致しないようだが如何だろうか。


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