BRIEFING.583(2022.09.12)

事務所等の床荷重

賃貸事務所を探す場合、まず担当者は立地、規模、築年数、賃料といった点を勘案して候補を絞ると考えられる。床荷重は後からチェックする程度だろうか。特に老朽化が進んだビルでない限り、通常のビルを通常の事務所として使用する場合、床荷重を気にする必要はないからである。

建築基準法施行令第85条第1項には「建築物の各部の積載荷重」について必要な値が定められている。

その第1項を見てみると、住宅の居室は1,800N/u(Nはニュートン)、事務所は2,900N/u、教室は2,300N/uとなっている。ニュートンは力(重さ)の単位で「質量1kgの物体に1m/s²の加速度を生じさせる力」であり、国際度量衡総会で採択されたSI単位系に基づき、計量法の別表第一(第三条関係)に定められている計量単位である。同じく力の単位である「kg重」との関係は1kg重=9.8Nである。

なお、SIは「Le Systeme International d’Unites」(フランス語)の略である。

「kg重」は、(正確な説明ではないが)質量1kgの物質の地球上での重さと言うことができ、地球上の建物の床荷重を語るのに「kg重」と「kg」を特に区別する必要はないだろう。実際、床荷重が「N/u」や「kg重/u」で表示されている例(前述の施行令を別にして)を見ることはなく、「kg/u」で表示されているのが普通である。

さて、先ほどの「N/u」を「kg重/u」(以下「kg/u」と表示)に直すと、住宅の居室は184kg/u、事務所は296kg/u、教室は235kg/uとなる。

では、実際の事務所ビルの床荷重はどうなっているだろうか。賃貸事務所ビルの広告から拾い出してみると、常盤橋タワー(2021年竣工)500kg/u、東京MIDTOWN(2007年竣工)500kg/u、汐留シティセンター(2003年竣工)500kg/u、となっている。そしていずれも一部に800〜1,000kg/uのヘビーデューティーゾーン(Heavy Duty Zone、以下HDZ)を設けている。サーバーや書庫の設置が可能な、特に大きな重量を支えることのできる部分である。

古いビルについて床荷重を見てみると、霞ヶ関ビルディング(1968年竣工)300kg/u、新宿NSビル(1982年竣工)300kg/u、近鉄堂島ビル(1983年竣工)300kg/uとなっている。前述の施行令の値を上回ってはいるが、新しいビルの500kg/uと比べると大きく劣る。HDZの記載もないから、おそらくHDZは設けられていないのだろう。

かつては300、今では500が標準と言ってよい。

ザイマックス不動産総合研究所が2019年1月に公表したレポートには東京23区のビルを対象にした「規模別・年代別の床荷重の割合」が報告されている。それによると、大規模ビルでは、1979年までは300〜400kg/uが大部分を占め、1980〜1999年ではそれが半分強に減り残りは400〜500、500〜600で、600以上も僅かに見られる。そして2000年以降は500〜600が大部分を占めるに至っている。

流通倉庫の床荷重はどの程度だろうか。これも広告から拾い出してみると、ロジクロス座間(神奈川県座間市、2022年3月竣工)は1,500kg/u、岩槻物流センター(埼玉県さいたま市、2022年11月竣工予定)は1,500kg/u(1階は2,000kg/u)となっている。古い倉庫については1,000程度も見られるが、最近の標準としては1,500だろう。事務所のHDZよりさらに強い。

データセンターも、かつては1,000kg/u、今では1,500〜2,000と言われている。


BRIEFING目次へ戻る