BRIEFING.586(2022.11.07)

新駅開業を見越した地価の上昇と開業後の地価

駅からの距離が、地域の地価の重要な価格形成要因の一つであることに異論はなかろう。そして今まで駅がなかった地域に鉄道が延伸され、新駅が開業したならば、その地域の地価は著しく上昇することが予想される。賃料の水準も同様だ。

では、この地価の上昇、賃料水準の上昇はいつ頃から具現化してくるだろうか。

延伸構想が検討され始めた頃か。正式に公表されてからか。あるいは、都市計画決定されてからか、事業認可されてからか。いやいや、着工してからか。こういう事業は大抵予定通りには進まないから、駅の開業日が決定してからだろうか。

普通、地価は現在から将来にかけての永久の使用価値に対応するものであり、賃料は現在の使用価値に対応するものである。したがって、それぞれそれを反映して決定される傾向にある。その結果、地価は早めに、賃料はぎりぎりになってから上昇するものと予測する。将来、賃料には改定があり得るのに、価格にはそれがない(後から値下げ、値上げは言えない)からと説明することもできる。

さて、新駅予定地周辺の地価の上昇は公示価格に現れてくる。公示価格の元となる試算価格の1つ「比準価格」が上昇してくるのは勿論のこと、もう1つの試算価格「収益価格」も(賃料はまだ上がっていなくても)還元利回りが下落して上昇してくる。

こうして上昇した公示価格の7割を目途に評価されるのが固定資産税の評価額である。

固定資産税は、固定資産の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、所有者に対して課税される財産税である。その評価額の見直し(評価替え)は3年毎であるから、公示価格にやや遅れて上昇することになる。

それでも、価格が賃料に先駆けて上昇する時間差の方がもっと大きいとすれば、たとえば所有する土地建物で飲食店を経営している人にとっては、地価が上昇したために、使用価値(店の収益)はまだ上がっていないのに固定資産税だけは上がる、という不都合が生じることになる。賃貸マンション経営者にとっても同様だ。賃料水準に変わりはないのに、固定資産税は先行して上がってゆくのである。

新駅開業後には、使用価値も、賃料水準も上がるのだから、それくらいのことは仕方ない、我慢せよと言うべきだろうか。

さて、新駅開業後の地価はどうなるであろうか。次の3つが考えられる。

(1)市場予想以上(期待以上)の使用価値向上が見られ、ますます上昇。
(2)市場予想通り(期待通り)の使用価値向上を達成し、上昇ストップ。
(3)市場予想以下(期待以下)の使用価値向上に過ぎず、一転下落。

株式市場では決算発表後に、好決算だったのに株価が下落したり、悪い決算だったのに上昇したりすることがある。蓋を開けてみれば、市場の予想以上だったか、以下だったか、によって株価が上下するからである。決算発表前に、すでに株価に市場の予想が織り込まれているのである。

一般に、新駅開業時の地価には、使用価値の上昇がすでに織り込み済みであると考えられる。開業後、市場が期待以上と判断するか、期待通りと判断するか、期待外れと判断するか。その後の地価の行方はそれに掛かっているのである。


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