BRIEFING.589(2022.12.12)

譲渡所得100万円なら御の字、低未利用地の価格はマイナスも?

令和2年(2020年)の税制改正で創設された「低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置」は、同年7月1日から本年12月末日まで(延長の可能性あり)の間に行う一定の条件を満たす低未利用地の譲渡によって生じる長期譲渡所得から、課税対象金額を100万円控除できる制度である。

放置されている低未利用地が、現状の所有者から、その土地に使用価値を見いだす人への譲渡を促す意図を持っている。確かに、樹木の除伐、測量、筆界確認等、いくらかの費用と手間をかけた上に、譲渡益にはしっかり課税となれば、売る気も失せよう。せめてもの100万円控除が、譲渡を進める若干のインセンティブになることは間違いない。

しかし、譲渡益が出るような不動産なら、誰でも少しの手助けがあれば売却に前向きになれるはずである。また譲渡益こそ出ないが、何とか売却(有償譲渡)できる、という不動産でもまだましな方だ。厄介なのはもらって(無償譲渡)ももらえない不動産である。それは誰にも使用価値を見い出してもらえない土地である。

一方、令和5年(2023年)4月27日からは、相続土地国庫帰属制度がスタートする。

相続又は遺贈によって土地(その共有持分を含む)を取得した人が、法務大臣に対して、その所有権を国庫に帰属させることについて、承認申請し、承認された土地について、国庫に帰属することになる。しかし、建物がある、他者の担保権や使用収益権がある、土壌汚染がある、境界が明らかでない等の場合には、申請ができず(法第2条第3項)、一定の勾配・高さの崖があって管理に過分な費用・労力がかかる等の場合には、承認されない(法第5条第1項)。その上、承認を受けても、土地の種目に応じた「負担金」(法第10条第1項)を納付しなければならない。その額は、その土地の管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定されたもので、施行令第4条に定められている。例えば100uの宅地なら548,000円となる。つまりは、無償譲渡どころか、逆有償譲渡である。しかもいくつかの条件を満たすもののみであり、結構ハードルは高そうだ。

引き取り手のいない低未利用地を所有する人々は、将来の相続人に迷惑をかけぬよう、何とかその土地を譲り渡そうと思案している。「限界ニュータウン」の1区画であったり、場所も分からぬ原野の1区画であったり。100万円の控除を受けるなど夢のような話だ。無償は当たり前、測量等の費用負担に加え、若干のお土産も覚悟している。

不動産鑑定評価は、すでに0円の鑑定評価額を生み出している。ではマイナスの鑑定評価額はどうだろうか。そろそろ必要であろう。いや、すでに生み出されているかも知れない。


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